ケアマネジャーの皆さま、日々のお仕事お疲れ様です。現場の”困った”を解決する「ケアマネ相談室」です。
ケアマネジャーとして経験を重ねていくと、「専門職としてはこう判断したい。でも、組織としては別の考え方を求められている」という場面に出会うことがあります。
「このサービスが本人には必要だと思うけれど、法人内のサービス利用を勧められる」「本人のペースで支援を進めたいのに、組織から早く結論を出すよう求められる」「専門職として意見を伝えたら、協調性がないと思われそう」。
利用者本位を大切にしたい気持ちと、組織の一員として求められる役割。その間で悩むことは、決して珍しくありません。
今回は、単純に「利用者を優先するか、組織に従うか」という二者択一ではなく、専門職としての自律性と組織人としての責任をどう両立させるのかについて、ベテランケアマネがお答えします。
例えば、本人の状態を見て外部のサービスが適切だと思っても、法人内のサービス利用を優先するよう言われたり、本人のペースで進めたいのに早く結論を出すよう求められたりします。
組織の一員なので、ある程度は方針に従う必要があるとは思っています。でも、「本当に利用者さんのためになっているのか」と疑問を感じながら調整することも多く、モヤモヤが消えません。
専門職としての判断と組織の方針がぶつかったとき、ケアマネはどのように考えればよいのでしょうか?
「専門職か、組織人か」の2択にしないことが大切です
この問題でまず意識してほしいのは、「専門職として利用者を守るか」「組織人として方針に従うか」という2択にしないことです。
ケアマネジャーは、介護支援専門員として専門的な判断を行う一方、事業所や法人という組織の中で働いています。そのため、組織としてのルールや業務上の役割を無視して、自分の考えだけで動くことが適切とは限りません。
一方で、「上司に言われたから」「法人の方針だから」という理由だけで、利用者の意向やアセスメントから導いた判断を引っ込めてしまうのも違います。
大切なのは、「誰の意見を通すか」ではなく、「その判断は何を根拠としているのか」を整理することです。
経験を積んだケアマネほど、自分の経験則から「こちらのほうがよい」と判断できる場面が増えます。しかし、専門職として求められるのは、自分の経験や感覚だけではなく、本人の意向、生活歴、心身の状態、家族状況、リスク、制度上の位置づけなどを踏まえて説明できる判断です。
つまり、組織と意見がぶつかったときこそ、「私はこう思います」ではなく、アセスメントを根拠に専門職として説明できるかどうかが問われます。
「組織の方針」にも中身があります
「組織の方針と合わない」と感じたときには、その方針が何を目的としているのか、一段掘り下げて考えることも大切です。
例えば、管理者が「この方法で進めてほしい」と言う背景には、事故防止、職員体制、他部署との役割分担、法令遵守、過去のトラブルなど、ケアマネ個人からは見えていない事情があるかもしれません。
その場合は、利用者支援を否定しているのではなく、組織として別のリスクを見ている可能性があります。
一方で、事業所側の都合や効率、法人内サービスへの誘導などが優先され、本人の意向や選択肢が十分に検討されていないのであれば、専門職として立ち止まる必要があります。
「組織の方針だから仕方ない」で終わらせず、その方針が利用者の利益とどのようにつながっているのかを確認することが重要です。
組織に疑問を持つことと、組織に反発することは同じではありません。
むしろ専門職として「なぜこの方針なのか」を確認し、利用者への影響を検討することも、組織の中で働くケアマネの役割の1つです。
現場で実践したい!専門職と組織人の間で迷ったときの3つの整理
専門職と組織人の間で迷った時は以下の視点を意識してみましょう。
①「自分の意見」ではなく「アセスメント」に戻る
意見がぶつかったときほど、一度「私はこうしたい」という考えから離れてみましょう。
確認したいのは、
- 本人は何を望んでいるのか
- その希望を妨げている生活課題は何か
- どのようなリスクがあるのか
- 本人の強みや残存能力は何か
- 家族や地域を含め、どのような支援資源があるのか
- 他の選択肢は検討したのか
といった、アセスメントの基本です。
例えば管理者から「デイサービスを増やしたほうがよい」と言われたときに、「本人が嫌がっているから増やしたくありません」だけでは、本人の希望と管理者の意見が対立して終わってしまいます。
「本人は自宅で過ごす時間を大切にしており、現時点では週2回の利用を希望しています。一方で家族の介護負担が増えているため、デイサービスの追加だけでなく、ショートステイや訪問系サービスも含めて検討したいです」
と整理できれば、話し合うべき論点が変わります。
専門職としての自律性とは、自分の意見を押し通すことではなく、自分の判断を根拠立てて説明できることだと考えてみてください。
②「誰が正しいか」ではなく「何を守ろうとしているのか」を確認する
意見が対立すると、つい「自分と管理者のどちらが正しいのか」という構図になってしまいます。
しかし、多職種・組織で支援する以上、それぞれが見ているリスクは異なります。
ケアマネは本人の生活全体を見ている。管理者は事業所運営や職員体制を見ている。介護職は日々の生活場面を見ている。看護職は医療的なリスクを見ている。
立場が違えば、「守りたいもの」の優先順位も変わります。
そこで、
- 「この方針にすることで、組織として一番懸念していることは何でしょうか」
- 「本人の希望を尊重した場合、どのリスクが一番大きいと考えていますか」
と確認してみます。
対立している「結論」だけを見るのではなく、その結論に至った理由を共有することが重要です。
理由が見えてくると、「では、そのリスクを別の方法で下げられないか」という第3の選択肢を検討できるようになります。
ケアマネに求められる調整力とは、意見の違いをなくすことではありません。異なる視点を可視化し、本人にとってより妥当な着地点を探すことです。
③「従う・反対する」の前に、判断過程を残す
専門職と組織の判断が食い違ったときに、もう1つ重要なのが「プロセスを残す」ことです。
- 「管理者に言われたので変更した」
- 「自分は反対だったが仕方なく従った」
だけでは、なぜその支援方針になったのかが分かりません。
本人の意向、家族の意向、ケアマネとしての見立て、組織側が示した懸念、検討した代替案、最終的にその判断に至った理由など、意思決定の過程を整理しておくことが大切です。
これは単なる「自分を守るための記録」ではありません。
支援は状況によって変化します。後から状態が変わったとき、「前回、何を理由にこの方針にしたのか」が分かれば、次の判断につなげることができます。
また、1人で抱えきれない場合には、管理者との個別のやり取りだけで終わらせず、サービス担当者会議や事業所内のケース検討、スーパービジョンなどを活用し、個人対個人の対立から、チームとしての検討へ移すことも重要です。
「組織に従うこと」と「組織で働くこと」は同じではありません
組織人であることを「上司の判断に従うこと」と捉えてしまうと、専門職としての葛藤は大きくなります。
しかし、本来の意味で組織の一員として働くとは、自分とは異なる立場や役割を理解しながら、必要な意見を出し、組織としてよりよい判断ができるよう働きかけることではないでしょうか。
逆に、専門職であることも「自分の判断を貫くこと」ではありません。
自分の見立ても1つの仮説として扱い、他者の視点を取り入れながら検証していく姿勢が必要です。
特に経験年数が長くなるほど、「これまでこの方法でうまくいった」という成功体験が判断に影響することがあります。
だからこそ、
「組織がおかしいのではないか」
と感じたときには、
「自分の判断にも思い込みはないか」
と1度問い直してみる。
反対に、
「組織の方針だから仕方ない」
と思ったときには、
「専門職として説明できない判断になっていないか」
と問い直してみる。
この両方向の視点を持つことが、専門職としての成熟につながります。
ジレンマを感じること自体が、専門職として考えている証拠
「利用者のためにはこちらがよい。でも組織の事情も分かる」
こうした場面では、すっきりとした正解が見つからないことも少なくありません。
ケアマネジャーの仕事は、利用者の意向、家族の希望、安全性、制度、事業所の体制、他職種の判断など、複数の要素の間で最善を探していく仕事でもあります。
だからこそ、迷ったときに大切なのは「どちら側につくか」を決めることではありません。
本人の意向とアセスメントに立ち返り、それぞれの立場が何を守ろうとしているのかを整理し、判断のプロセスをチームで共有すること。
専門職としての視点を失わず、それを組織の中でどう機能させるかまで考える。
「専門職」と「組織人」は、本来対立するものではありません。
その間で生じる違和感をなかったことにせず、よりよい支援を考えるための問いに変えていくことこそ、経験を積んだケアマネジャーに求められる力ではないでしょうか。
執筆者紹介 花俣
介護現場の「伴走者」。豊富な相談実績から、最適な選択肢を提案します。
介護老人保健施設(老健)や特別養護老人ホーム(特養)での相談援助職を経て、現在は多角的な視点から介護支援を行う。社会福祉士・精神保健福祉士・ケアマネジャーの3つの資格を保持し、制度の裏側から現場のリアルまでを熟知。これまで数多くの家族の悩みに向き合ってきた経験から、読者の「今、どうすればいい?」に対する的確な解決策を提示します。
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