介護の現場で重要な役割を担う「介護支援専門員(ケアマネジャー)」。利用者や家族の相談に応じてケアプランを作成し、サービス事業者との調整や連携を行う“介護の司令塔”です。
しかし、今このケアマネジャーの人材不足が深刻化しています。介護サービスの利用者は増える一方で、ケアマネジャーの数が追いつかず、利用開始が遅れたり、既存スタッフの業務が過重になったりするケースが各地で報告されています。東京都内でも同様で、特に中小規模の事業所では人員確保が大きな課題です。
こうした状況を踏まえ、東京都は2025年9月、「介護支援専門員再就業等支援事業」をスタートしました。有資格者でありながら現在は現場を離れている“潜在ケアマネ”に再び活躍してもらうことを目的とした支援策です。
潜在ケアマネとは?資格はあるが働いていない人が多数
「潜在ケアマネ」とは、介護支援専門員の資格を持っているものの、現在はその職に就いていない人を指します。家族介護や出産・育児を理由に退職した人や、制度改正による業務の複雑化への不安、ブランクへの懸念など、現場を離れた理由はさまざま。
実際、ケアマネジャーの仕事は制度や報酬の改定が多く、最新の知識をキャッチアップする必要があるため、「長く現場から離れていたらついていけないのでは」と不安に感じる人も少なくありません。
東京都の新事業は、こうした“眠れる人材”を掘り起こすことを目的としています。
目次
東京都の新支援策で”再就業”を後押し
今回スタートした東京都の再就業支援は、主に次の取り組みで構成されています。
①再就業相談窓口の設置
ブランクがある人や、復職への不安を抱える人が気軽に相談できる窓口を設置。電話・メール・オンライン相談が可能で、制度や業務内容の変化、求人情報などについて専門スタッフが対応します。
- 「現場を離れてから制度が大きく変わっているけれど大丈夫?」
- 「今の働き方に合う事業所があるのか知りたい」
- 「家庭と両立できる条件で復職したい」
といった相談にも応じ、再就職までの道筋を一緒に考えてくれます。
②奨励金(10万円)の支給
離職後3か月以上が経過した潜在ケアマネが、都内で再就業し6か月以上継続した場合、一律10万円の奨励金が支給されます。また、資格はあるが一度も実務経験がない方が新たに都内でケアマネとして就業した場合も対象に。再就職準備に必要な費用(交通費、研修費、教材費など)として活用できる点もメリットです。
※重要:失業保険給付期間中は対象外となります。また、今年度の新規登録者は対象外です。
※対象条件や支給時期の詳細は介護支援専門員再就業等支援事業ポータルサイトをご確認ください。
③中小企業への介護離職防止支援
さらに特徴的なのが、中小企業への講師派遣支援です。ケアマネジャー有資格者が企業に出向き、介護制度の基礎知識や活用できる支援策について説明します。従業員が家族の介護を理由に離職するリスクを減らす取り組みです。
企業側の制度理解が深まれば、柔軟な働き方や社内サポート体制の整備につながり、「介護離職ゼロ」をめざす一歩となります。
背景にある「人材確保の壁」──制度改定と需要増
東京都が再就業支援に乗り出した背景には、介護人材の慢性的な不足と制度の変化があります。
この人材不足の背景には、ケアマネジャーの数そのものが足りていないという現実も。介護報酬改定などの影響もあり、ケアマネジャーには医療・福祉との連携強化や複雑なニーズへの対応、生活支援まで含めた包括的な支援など、より高度な役割が求められるようになりました。
一方で、こうした役割の拡大は現場の負担を押し上げ、「業務が重くなって復職をためらう」潜在ケアマネを増やす要因ともなっています。
今回の東京都の支援策は、まさにこうした現状を踏まえ、眠っている“人的資源”を再び活かすための戦略といえるでしょう。
実効性のカギは「定着支援」と「情報発信」
東京都の取り組みは大きな前進ですが、実効性を高めるためには、次のような課題への対応が重要と考えられます。
定着支援がなければ離職リスクが残る
復職のきっかけはつくれても、「思っていた業務内容と違った」「職場のサポートが不十分だった」といった理由で再び離職してしまう可能性があります。再就職後のフォローアップ体制、メンター制度、定期研修など、“定着まで見据えた支援”が不可欠です。
制度を知らない潜在層へのアプローチが鍵
「再就業支援制度を知らなかった」という声が少なくないことを踏まえると、自治体のサイトだけでは十分とは言えません。SNSや専門職向けメディア、転職支援サイトなど、多角的な情報発信が今後の課題といえるでしょう。
奨励金だけでは不十分な場合も
10万円の奨励金は再就職の後押しになりますが、交通費や学び直しのコスト、家庭支援の確保など、金銭以外のハードルがある人も少なくありません。今後は、研修費補助や在宅勤務対応の拡充といった複合的な支援策についても、検討が望まれます。
中小企業にもメリット“介護離職ゼロ”を目指す取り組み
今回の支援策は、ケアマネジャーだけでなく企業にとっても重要な意味を持つ取り組みです。介護離職は企業にとって大きな損失であり、業務への影響だけでなく、採用・育成コストの増大という課題にも直結します。
東京都の「講師派遣支援」は、企業が制度を理解し、柔軟な働き方や社内制度を整えるきっかけとなる施策。企業側の意識が変われば、介護と仕事の両立支援は大きく前進します。ケアマネジャー再就業支援と中小企業支援は、まさに表裏一体の取り組みといえるでしょう。
眠れる資格を、もう一度“現場の力”に
介護支援専門員の資格は、介護分野で長く活躍できる貴重な専門資格です。ブランクがあっても、その経験や知識は決して失われていません。東京都の「再就業等支援事業」は、こうした潜在人材が再び現場に戻るきっかけとなる取り組みです。
まずは、再就業相談窓口や奨励金制度などの情報をチェックしてみてください。
参照元:東京都 介護支援専門員の再就業支援と中小企業における介護離職防止の新たな取組を開始します、東京都福祉局 介護支援専門員(ケアマネジャー)の再就業支援と中小企業における介護離職防止の取組を開始します





