2040年、団塊の世代が後期高齢者となり、85歳以上の人口が急増する中、日本の介護サービスは新たな局面を迎えます。都市と地方では人口構造やサービス需要が大きく異なり、地域の事情に応じた柔軟な対応が不可欠です。
社会保障審議会・介護保険部会では、次期(第10期)介護保険事業計画に向けて、地域類型別の対応や人員基準の見直し、報酬制度の再構築など、多角的な議論が進んでいます。
この記事でわかること
- 日本の介護制度は「全国一律」から「地域別最適化」へ大転換する
- 中山間地域では「サービス維持」のため大胆な規制緩和が行われる
- 2027年度から始まる第10期計画で具体化される
目次
背景|2040年問題と広がる地域格差
日本の介護政策は、2025年に団塊の世代が後期高齢者となる「2025年問題」への対応を進めてきました。しかし、その先にはさらに大きな「2040年問題」が待ち受けています。高齢者数は2040年頃にピークを迎え、介護と医療の複合的な支援を必要とする85歳以上の人口が急増。一方で、支え手となる生産年齢人口は減少し、介護の担い手不足は深刻さを増す見通しです。
加えて、人口減少や高齢化のスピードは地域によって大きく異なります。都市部では介護需要が急増する一方で、中山間地域では人口減少が進み、サービス提供そのものが困難になるケースも想定されるのです。こうした地域格差に対応する新たな仕組みづくりが急務となっています。
主な内容|新たな介護提供モデルの方向性
地域の実情に応じた制度設計や仕組みの見直しが進む中、次期介護保険制度の骨格を形づくる新たなモデルが検討されています。
1.地域を3類型に分ける考え方
国は今後の人口構造とサービス需要の変化を踏まえ、全国を以下の3類型に分類する方向です。
- 中山間・人口減少地域:人口密度が低く、サービス需要が減少する地域
- 大都市部:高齢者人口と需要が急増する地域
- 一般市等:需要が一時的に増加後、減少に転じる地域
地域の状況に応じて基盤整備や支援策を柔軟に設計する方針で、同一自治体内でも一部エリアを「中山間地域」として指定できるようにするなど、よりきめ細かい対応が検討されています。
2.中山間地域での人員基準の緩和
深刻な人材不足が予想される中山間地域では、人員配置基準の柔軟化が議論されています。具体的には、
- 管理者・専門職の常勤・専従要件や夜勤要件の緩和
- 事業所間の連携を前提とした職員共有の仕組み
- ICT導入による業務効率化
などを条件に、サービス提供体制を維持できるようにする方向です。
3.訪問介護の「定額報酬制」導入の検討
訪問介護では、サービス提供量に応じて報酬が算定される仕組みが主流ですが、需要の季節変動やキャンセルの影響で安定経営が難しい地域も多くあります。このため、月単位の定額制(包括的評価)を選択肢とする制度の導入を検討。
定額制には、収入の予見性が高まる一方で、モラルハザードの懸念もあるため、報酬区分の細分化やケアマネジメントの強化など、制度設計上の工夫が求められています。
4.その他の施策
地域の多様な課題に対応するため、介護サービスの仕組みそのものを見直す取り組みも進められています。
- 市町村が介護サービスを「事業」として実施できる仕組みの創設
- 介護事業者間の連携・協働体制の強化
- 補助金返還ルールを見直し、既存施設の柔軟な転用を可能にする特例措置
- 調整交付金の算定方法を見直し、地域間格差の是正を図る方向性
審議会の意見|賛成と懸念の両面から
議論では多くの委員が、柔軟な制度設計の方向性に概ね賛同する一方で、いくつかの懸念も示されています。
賛成意見
- 中山間地域では人材・事業者が不足しており、基準緩和や定額制は現実的な対応策である
- サービス確保のためには、「保険あってサービスなし」の状態を避けるため、思い切った施策が必要
- 定額制の導入は、移動時間が長い地域の事業者の安定経営につながる
懸念点
- 枠組みの柔軟化が進むと、地域間のサービス格差が拡大する恐れがある
- 人員基準の緩和はサービスの質低下や職員負担増につながる可能性がある
- 包括的評価導入により、介護保険料や利用者負担の増加が懸念される
- 定額制ではサービス提供を控える事業者や、過剰利用のリスクも指摘されている
今後の流れ|第10期介護保険事業計画へ反映
これらの議論は、2027年度から始まる第10期介護保険事業計画に反映される見込みです。今後、介護給付費分科会などで制度設計の詳細が詰められ、2026年度中には報酬改定や関連法令の見直しが具体化していく見通しとなっています。
地域ごとに大きく異なる課題に対して、「全国一律」ではなく、「地域に応じた最適解」を追求する時代へ。介護の未来は、今まさに大きな転換点を迎えているといえるでしょう。
参照元:厚生労働省 人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築等





