2025年11月、厚生労働省は「特別養護老人ホームにおける診療行為に対する報酬の給付調整」について、全国の自治体へ向けて周知を求める通知を行いました。特別養護老人ホームでは、介護と医療が重なり合う場面が多く、「どの医療行為が介護報酬か」「どの行為が医療保険の対象か」について、現場で誤解が生じやすい領域でもあるのです。
本記事では、厚生労働省の通知内容をもとに、医療と介護それぞれの報酬がどのように調整されるのかを、現場目線で丁寧に解説します。
この記事でわかること
- 特別養護老人ホームにおける配置医師と外部医師の診療報酬算定の違い
- 緊急時・専門外診療・看取り時の医療保険適用条件と具体例
- 協力医療機関との連携要件と介護保険施設等連携往診加算の算定ルール
目次
なぜ特別養護老人ホームでは「給付調整」が必要なのか?
特別養護老人ホームには、入所者の健康管理・療養上の指導のために「配置医師」を置くことが義務づけられています。配置医師による日常的な健康管理は、すでに介護報酬(基本サービス費)で評価済みのため、診療報酬として重複して請求することはできません。
しかし、すべてが介護報酬で包括されるわけではなく、緊急時や配置医師の専門外の診療、さらには看取りの場面などでは、医療保険で診療報酬が算定されることがあります。
そのため、特別養護老人ホームでは介護と医療の報酬が重複しないよう「給付調整」が必要です。
配置医師と外部医師の役割の違い
特別養護老人ホームにおける診療行為の可否は、「誰が行うか」で大きく変わります。
配置医師(施設が配置する医師)
特別養護老人ホームの入所者に対し、日常的な健康管理や療養上の指導を行う医師であり、その役割は介護報酬で評価される点が大きな特徴です。
算定できない診療報酬
- 初診料
- 再診料
- 外来診療料
- 往診料
すべて、介護報酬に包含されているため算定不可となっています。
算定できる可能性があるもの
- 薬剤料
- 点滴注射(条件により可)
配置医師が指示し、看護師が実施した場合など、医療行為の内容に応じて一部算定可能です。
外部医師(協力医療機関、専門医師など)
次の場合には、外部医師による診療報酬算定が可能になります。
- 緊急の場合
- 配置医師の専門外の傷病
- 末期の悪性腫瘍、または協力医療機関等の医師による看取りの場合
具体的な事例でみる算定の可否
実際によくある場面を例に、どんなときに介護報酬になり、どんなときに医療保険が使われるのかを見ていきます。
発熱し、配置医師が診察した場合
- 健康管理は介護報酬に含まれる
- 点滴などは行為内容によって薬剤料のみ算定可(点滴実施料は不可)
手の怪我が治らず皮膚科を受診した場合
配置医師の専門外であるため、外部医師による初診料・創傷処置・投薬などの診療報酬が算定されます。
夜間の急変で協力医療機関が往診した場合
- 初診料(または再診料)
- 往診料(条件によっては加算)
- 検査・処置・投薬
- 条件を満たせば「介護保険施設等連携往診加算」
2024年度改定で求められる「協力医療機関」の体制強化
令和6年度介護報酬改定では、特別養護老人ホームが医療機関と連携して医療ニーズに対応できるよう、協力医療機関の要件が強化されました。
必須となる連携要件(抜粋)
- 医師・看護職員による急変時の相談対応が常時可能
- 求めに応じた診療対応が常時可能
- 入院が必要な場合の受入体制
- ICTを活用した情報共有
- 年3回以上、または月1回以上のカンファレンス
現場に求められる実務上のポイント
ここからは、誤解や請求トラブルを防ぐために、現場で特に重要なポイントを整理します。
配置医師が算定できない行為を正確に理解する
前述のとおり、配置医師は初診・再診・外来診療料・往診料はいずれも算定不可。「配置医師が診察した=医療保険請求できない」点は最重要ポイントです。
外部医師介入時の「緊急性」「専門外」の判断を共有する
診療報酬の算定には、「配置医師では対応できない理由がある」「緊急性がある」などの明確な“必要性”が求められるため、看護職・生活相談員・ケアマネなど多職種で共通認識を持つことが欠かせません。
また、協力医療機関との連携要件を確実に残すことは、加算算定や疑義解釈に直結するため、情報共有の記録が必須となります。
特別の関係にある医療機関では加算が算定できない
特別養護老人ホームと医療機関の開設者や代表者が同じ等の場合は加算の算定ができません。
「特別の関係」とは
- 特別養護老人ホームと医療機関の開設者・代表者が同一
- 代表者同士が親族関係にあるなど、密接な関係にある場合
対象となる算定不可の加算
- 介護保険施設等連携往診加算
- 協力対象施設入所者入院加算
看取りに関する診療報酬算定の要件
看取りに関する診療報酬は算定できる医師が厳密に決められており、末期の悪性腫瘍かどうか、協力医療機関の医師かどうかなど、以下の条件を満たすことが必要です。
がん末期の場合
配置医師による看取りも対象となり、在宅患者訪問診療料や在宅ターミナルケア加算、看取り加算などを算定することができます。
非がん末期の場合
看取りに関する診療報酬が算定できるのは次の医師に限定されます。
- 在宅療養支援診療所
- 在宅療養支援病院
- 特別養護老人ホームが定める協力医療機関の医師
配置医師だけでは算定できない場合があるため注意が必要です。
看取り加算との重複ルール
死亡診断加算は、死亡日に医師が往診または訪問診療を行い、そこで死亡診断を行った場合に算定できます。ただし、看取り加算を算定している場合は、死亡診断加算の併算定は不可。これは二重評価を避けるための重要なルールです。
特別養護老人ホームのケアの質を高めるために
特別養護老人ホームでは、日常的な健康管理を介護報酬で評価しつつ、緊急対応や専門外診療、看取りなどは医療保険で評価される仕組み。しかし、その境界は非常に複雑で、配置医師・外部医師・協力医療機関の関係性や加算の要件など、多くの詳細を正確に理解する必要があります。
今後も制度改正が続く中で、医療と介護の境界を正確に把握し、チームで共有していくことが、特別養護老人ホームのケアの質を高める大きな一歩になります。





