厚生労働省は「令和8年度介護事業経営実態調査の実施について」を示しました。本調査は、2027年度介護報酬改定の基礎資料となる重要なデータ収集です。訪問介護の抽出率引き上げをはじめ、通所の送迎実態や施設の食事提供回数まで把握対象が広がっています。本記事では、調査のポイントと改定への影響を整理します。
この記事でわかること
- 令和8年度介護事業経営実態調査における、訪問・通所・施設系サービスの具体的な変更点
- テクノロジー導入費や補助金の影響を明確化し、精緻な収支構造を把握する国の狙い
- 調査の回収率向上に向けた工夫と、今回の調査案が現時点では最終確定ではないという注意点
目次
訪問介護の精緻化は「象徴的な論点」
今回の実態調査では、訪問介護の抽出率が10事業所に1事業所(約10%)から、8事業所に1事業所(約12.5%)へと引き上げられる案が示されました。全体の事業所数は35,497事業所とされており、サンプル数の拡大によって分析精度を高める狙いがあります。また、訪問先の状況をより精緻に把握できるよう調査項目が見直され、移動手段や移動時間の把握も継続されます。
集合住宅中心の効率的なモデルと、戸別訪問中心で移動負担の大きいモデル。この違いをどこまで可視化できるかが、次期改定議論の重要な分岐点になります。
通所系サービスでも「移動」を可視化へ
今回の見直しは、訪問系だけにとどまりません。通所系サービスについても、サービス提供状況(送迎の状況等)、移動手段、移動時間を把握するための調査項目が追加されます。
これは、通所介護における送迎コストの実態をより精緻に分析するための措置といえます。特に中山間地域や広域エリアでは、送迎コストは経営に直結する重要要素です。訪問介護と同様に、「移動」が経営を左右する実態がどこまで反映されるかが注目されます。
施設系サービスでは「食事提供回数」を把握
施設系サービスでは、新たに食費に計上される「食事提供回数」を把握する項目が設けられます。
近年の物価高騰により、給食の材料費や委託費は上昇傾向にあり、施設経営への影響も無視できません。これまでは食費収入の額が主な分析対象でしたが、今後は「何回提供しているのか」という実態まで把握することで、より具体的な経営状況を検証できるようになります。
食事の提供回数を踏まえたデータは、物価高騰の影響を報酬議論にどう反映させるかを考えるうえでも、重要な材料となりそうです。
テクノロジー導入と補助金の影響も明確化
介護テクノロジーの導入状況については、機器別の保守・点検などのランニングコストを把握できる設計へと見直されます。あわせて、賃上げ補助金やサービス継続支援補助金の金額を明示する欄も追加されます。補助金の影響を含めた実質的な経営状況を分析するための見直しです。
これにより、収支の分析において次の点を分けて把握できるようになります。
- 補助金による一時的な収益改善の効果
- 補助金を除いた本来の事業収支構造
単年度の黒字・赤字だけでなく、事業の持続可能性をより正確に検証できる設計といえるでしょう。
回収率向上策とオンライン回答の優遇措置
経営実態調査の有効回答率は、令和2年度が45.2%、令和5年度が48.3%と推移しています。分析の精度を高めるためには、回収率の向上が引き続き重要な課題です。今回も、介護保険総合データベースの活用や、建物情報などのプレプリント対応、法人本部への調査票の一括送付といった取り組みが継続されます。
さらに、オンライン調査(電子調査票)では、紙の調査票よりも回答期限が1週間程度長く設定されています。電子調査票に数値を入力すると、経営分析に役立つ指標が自動計算される仕組みです。単なるデータ収集にとどまらず、回答事業所にとっても経営改善に活用できる設計となっている点が特徴です。
未回答理由の把握と手法改善
発送時のアンケート同封や、督促時の未回答理由の把握(業務多忙、内容の複雑さ等)も明記されています。これは、単なる回収率向上策ではなく、調査手法そのものを改善しようとする姿勢を示しています。経営実態を正確に捉えるには、回答しやすい設計が不可欠です。
抽出率は最終確定ではない
なお、本調査は「政府統計の一般統計調査」とされており、総務大臣の承認過程で抽出率や調査事項が変動する可能性があることも注記されています。つまり、現時点の案は最終確定ではない点にも留意が必要です。
厚生労働省の「より細かく見る」姿勢
今回の実態調査は、訪問介護の精緻化だけでなく、通所系の送迎実態、施設系の食事提供回数、テクノロジー導入コスト、補助金の影響、さらには回答環境の改善まで幅広い見直しが行われています。これは、介護事業全体の経営実態をより細かく、構造的に把握しようとする姿勢の表れです。
2027年度の介護報酬改定は、この調査結果をもとに議論が進みます。現場の実情がどこまで可視化されるのかが、今後の大きな焦点となるでしょう。
参照元:厚生労働省 介護事業所の経営実態調査





