令和6年度介護報酬改定では、高齢者施設と医療機関の連携強化が大きな柱となりました。施設系サービスでは、要件を満たす協力医療機関の設定が義務化され、居住系サービスでも努力義務として体制整備が求められています。では、現場の連携体制は実際にどこまで進んでいるのでしょうか。
本記事では、第32回介護報酬改定検証・研究委員会で示された調査結果をもとに、高齢者施設と医療機関の連携体制の現状を整理するとともに、加算算定の壁やICT活用の遅れ、地域格差といった課題を読み解きます。制度上の整備と現場の実態との間にあるギャップにも目を向けながら、次期改定に向けた論点を考えます。
この記事でわかること
- 協力医療機関の義務化と、加算が算定できない現場のリアルな実態
- ICT化の遅れや地域格差など、医療連携を阻むハードル
- 救急搬送の減少効果と、次期改定に向けた「機能する連携」づくりのポイント
目次
協力医療機関の設定と加算算定のギャップ
まず確認しておきたいのは、協力医療機関を定めていることと、協力医療機関連携加算を算定できていることは同じではないという点です。
調査結果を見ると、特別養護老人ホームでは、要件を満たす協力医療機関を定めている施設が67.9%に達しています。一方で、協力医療機関連携加算(50単位/月)を実際に算定しているのは37.6%にとどまります。体制整備は進んでいるものの、報酬算定には結びついていない施設が少なくありません。
加算を算定しない理由として最も多かったのが、「定期的な会議の負担が重く、会議を行えていない」という回答です。特別養護老人ホームでは46.3%、介護老人保健施設では52.9%がこの理由を挙げています。
つまり、形式上の協力医療機関の設定はできていても、加算算定の要件である定期的なカンファレンスの実施が現場の負担となっている実態が読み取れます。運用面のハードルは決して低くありません。
制度は「実効性のある連携」を求めていますが、その質を担保するための人的余力が不足しているという構図が浮かび上がります。体制整備と実際の運用、その間にある負担の差こそが、加算算定の伸び悩みにつながっているといえるでしょう。
ICT連携はまだ限定的
医療機関との情報共有のあり方にも、はっきりとした課題が見られます。協力医療機関と電子カルテなどの電子的システムを用いて情報共有を行っている割合は、次のとおりです。
- 介護医療院:43.9%
- 介護老人保健施設:20.5%
- 介護老人福祉施設:11.5%
- 特定施設:15.7%
介護医療院では4割を超えている一方で、特別養護老人ホームや特定施設では1割台にとどまっています。施設種別によって、ICT活用の進み具合に大きな差があることが分かります。
感染症対応連携の地域格差
令和6年度改定では、新興感染症の発生時に備えた医療機関との連携強化も重要な柱となりました。特に、第二種協定指定医療機関と平時から関係を築いておくことが重要です。
しかし、実際の体制整備状況を見ると、施設種別によって差がみられます。
- 介護医療院:50.4%
- 介護老人保健施設:37.7%
- 特別養護老人ホーム:28.5%
- 居住系サービス:2割前後
医療機能を併せ持つ介護医療院では半数が体制を整えている一方で、特別養護老人ホームや居住系サービスでは3割未満、あるいは2割程度にとどまっています。
体制が整わない理由として挙がっているのは、次のような声です。
- 周辺に第二種協定指定医療機関が存在しない
- どの医療機関が指定されているのか把握できていない
いずれも、施設単独では解決が難しい課題です。地域の医療資源の不足や、指定医療機関に関する情報共有の不十分さが、体制整備の遅れにつながっていることがうかがえます。
医療連携が救急搬送を減らす
今回の調査で特に注目したいのは、医療連携の効果が具体的な数値として示されている点です。要件を満たす協力医療機関を定めている施設では、定めていない施設と比べて、入院時に救急車を利用する割合が低い傾向が確認されています。
これは、急変時にいきなり救急搬送に頼るのではなく、平時からの相談体制や入院受入の調整が機能している可能性を示しています。医療連携の強化は、単なる報酬上の要件ではありません。結果として、地域の救急医療資源の適正利用、ひいては医療提供体制の安定にもつながっています。制度設計の方向性を裏付ける、重要な示唆といえるでしょう。
「車で20分未満」でも見えない地域格差
協力医療機関との距離については、全体の約7割が「車で20分未満」と回答しています。この数値だけを見ると、医療機関へのアクセスは十分に確保されているのかもしれません。しかし、実際には都市部と過疎地域では状況が大きく異なります。
過疎地域では、そもそも近隣に医療機関が少なく、協力医療機関の要件を満たす病院が地域内に存在しないケースも少なくありません。そのため、制度上は同じ要件が課されていても、体制整備が難しい施設の割合が有意に高くなっています。
つまり、「車で20分未満」という距離要件を満たしているかどうかだけでは、実効性を十分に測ることはできません。地理的条件や医療資源の分布といった地域特性によって、連携の“到達可能性”には大きな差が生じています。
全国一律の制度設計のもとであっても、地域医療の偏在という現実が、施設の連携体制に直接的な影響を与えている点は見逃せない論点です。
次期改定に向けた現場からの示唆
今回の調査から、今後考えるべきポイントが見えてきます。
整備から機能へ
協力医療機関の設定は、制度改定を受けて着実に進んでいます。多くの施設が要件を満たす医療機関を定め、形式上の体制整備は一定程度整いました。
しかし、次に問われるのは「その連携が実際に機能しているか」という点です。加算算定に必要な定期的なカンファレンスの実施が負担となり、体制はあっても十分に活用できていない施設も少なくありません。整備と運用の間には、明確なハードルが存在しています。
今後は、会議運営の効率化やICTの活用など、現場の負担を抑えながら連携の質を高める工夫が不可欠です。制度として“整えた”体制を、日常業務の中で“機能させる”段階へと進めることが、次期改定に向けた重要な課題といえるでしょう。
ICTは“質の担保装置”になる
電子的な情報連携は、単なる業務の効率化にとどまりません。医療と介護の連携の“質”を支える基盤となるものです。
具体的には、
- 急変時対応の迅速化
- 会議負担の軽減
- 役割分担の明確化
といった効果が期待されます。
ICTの活用は、情報共有を円滑にするだけでなく、連携を実際に機能させるための土台となります。効率化の手段であると同時に、連携の実効性を高める“質の担保装置”ともいえる存在です。
自治体の役割強化
施設側からは、医療機関リストの明確化や、第二種協定指定医療機関に関する分かりやすい情報提供、さらには具体的なマッチング支援を求める声が強く上がっています。
単に制度を整備するだけでは、実効性のある連携は進みません。地域の実情に応じた情報共有や調整機能の強化があってこそ、連携体制は機能します。今後は、自治体や関係機関が橋渡し役となり、地域単位での調整力を高めていくことが不可欠です。
連携は“義務”から“地域戦略”へ
令和6年度改定は、医療連携を制度として明確に位置づける第一歩となりました。協力医療機関の設定や感染症対応体制の整備は進みつつありますが、現場では会議負担やICT未整備、地域格差、人材不足といった課題が依然として残っています。
今後は「体制を整えているか」ではなく、「連携が機能しているか」が問われる段階に入ります。現場の負担を抑えつつ実効性を高める仕組みづくりが、次の政策論点となるでしょう。
参照元:厚生労働省 (1)高齢者施設等と医療機関の連携体制及び協定締結医療機関との連携状況等にかかる調査研究事業(結果概要)(案)





