年金を受給しながら短時間の就労で生活を支える高齢者は多くいます。しかし、令和7年度の税制改正で給与所得控除の最低保障額が引き上げられたことにより、住民税は非課税のままでも、介護保険料の段階判定に用いる合計所得金額が増加し、保険料負担が重くなるケースが生じ得ます。
こうした「制度の境目」の問題は、介護現場でも繰り返し指摘されてきました。この課題を受け、厚生労働省は令和8年度に限り、介護保険料の特例的な減免措置を設ける方針を示しています。本記事では、制度の概要を整理するとともに、現場で押さえておきたい実務上のポイントを解説します。
この記事でわかること
- 令和8年度限定の介護保険料特例減免の対象者と要件
- 「就労調整」の考え方と減免の具体的な内容
- 実施に必要な市町村の条例改正と今後の注視ポイント
目次
前年度「世帯非課税」を前提とした特例減免
今回の措置で特に重要なのは、対象者の考え方です。特例減免の対象となるのは、前年度(令和7年度)に住民税非課税であった第1号被保険者ですが、判定は「本人のみ」ではありません。資料では、本人・世帯主・すべての世帯員が住民税非課税であった世帯であることが前提条件とされています。
この点は、実務上見落とされやすいポイントです。本人が非課税であっても、同一世帯の家族に課税者がいる場合は対象外となるため、相談対応の際には「世帯単位での判定」であることを丁寧に説明する必要があります。
「就労調整」は働くことを否定するものではない
本措置では、令和7年度の税制改正により給与所得控除の最低保障額が引き上げられたことを踏まえています。その影響により、住民税は非課税のままでも、介護保険料の段階判定上は合計所得金額が増え、保険料負担が重くなる可能性が生じました。
そこで国は、非課税の基準から、控除の引き上げ分の範囲内で就労調整(就労収入の増加)を行った場合、これを介護保険法第142条に定める「特別の理由」に該当すると整理しています。
ここでいう「就労調整」は、単に「働くのを控える」ことを意味するものではありません。むしろ、控除額の拡大によって許容される範囲内で、収入を少し増やした場合も含めて評価する考え方です。高齢者の就労や社会参加を過度に萎縮させないための、重要なメッセージが込められています。
減免の内容と事務処理の考え方
この特例が認められた場合、令和8年度の介護保険料は、令和7年度と同じ保険料段階まで減免することが可能です。減免の手続きは原則として本人申請に基づく個別認定ですが、通知では市町村の事務負担にも配慮した運用が想定されています。
また、特例減免が適用された場合でも、減免後の保険料段階を基準として、低所得者軽減に係る国庫負担や調整交付金が算定されることが明記されています。これは、減免措置によって自治体の財政に過度な影響が及ばないよう、国の負担の考え方まで含めて整理されていることを示すものです。
保険料減免を実施する自治体にとって、財源面での不安を抑えながら対応できる仕組みが示されている点も、本措置の重要な特徴といえるでしょう。
実施のカギは「条例改正」にある
今回の通知は、厚生労働省が市町村向けに「介護保険条例の参考例」を示したものです。重要なのは、この特例減免が実際に適用されるかどうかは、各市町村が条例改正を行うかにかかっているという点です。
そのため、利用者や家族、支援職にとっては、「国が示した制度が、お住まいの自治体でどのように条例化されるのか」を今後の広報や議会動向を通じて注視していく必要があります。
制度は「働きながら暮らす高齢者」を支えるために
今回示された特例減免措置は、令和8年度限りの時限的な対応ではありますが、その背景には明確な制度的メッセージがあります。それは、高齢期においても無理のない範囲で働き続けることや、社会との関わりを持ち続けることを、制度が妨げるべきではないという考え方です。
わずかな収入増によって保険料負担が急に重くなり、「働くとかえって損をする」と感じてしまえば、高齢者の就労意欲や社会参加は確実に低下します。今回の措置は、そうした事態を防ぐために、生活実態に即した柔軟な調整を行う姿勢を示したものといえるでしょう。





