令和6年度介護報酬改定の審議報告では、「利用者にとってのわかりやすさ」と「介護サービス事業者の事務負担軽減」の観点から、報酬体系の簡素化を引き続き検討すべきとされていました。
これを受け、第260回社会保障審議会介護給付費分科会(令和8年7月9日)でも、特別養護老人ホーム(特養)・介護老人保健施設(老健)それぞれの「現状と課題」の中で、算定率が低い加算・高い加算が論点として整理されています。
本記事では、分科会資料の実際のデータをもとに、見直しの候補として挙がりうる加算を整理します。
目次
この記事でわかること
- 特養・老健で事業所ベースの算定率が1%を下回る加算の一覧と、算定されない構造的な背景
- 算定率が70%を超え、基本報酬への統合が議論されうる加算の一覧
- 第260回介護給付費分科会で示された、次期改定(令和9年度)に向けた報酬体系の簡素化の検討状況
「報酬体系の簡素化」とは
介護報酬は改定のたびに新しい加算が創設され、現在では施設種別ごとに数十種類の加算が存在。その中には、
- 対象となる利用者や算定要件が限定的で、ほとんど使われていない加算
- 多くの施設がほぼ例外なく算定しており、実質的に基本サービスの一部になっている加算
が混在しており、制度全体が複雑になっているという指摘があります。
こうした状況を踏まえ、令和6年度改定では、老健の「認知症情報提供加算」と「地域連携診療計画情報提供加算」が、算定実績が乏しいことを理由にすでに廃止されました。
これは実際に簡素化が実施された前例であり、今後も同様に、算定率の低い加算を中心とした整理が進む可能性があるでしょう。
なお、資料で使われている「算定率」には2種類あります。
- 件数ベース:その加算が請求された件数が、全体の請求件数に占める割合
- 事業所ベース:その加算を1件でも算定した事業所が、全請求事業所に占める割合
件数ベースは利用者への広がりを、事業所ベースは施設への普及状況を表します。以下では主に事業所ベースの数値を中心に見ていきましょう。
なお、本記事で掲載する特養の算定率データは、広域型の介護老人福祉施設の数値です。地域密着型介護老人福祉施設の算定状況は別途集計されていますが、退所系加算がほぼ0%であるなど、同様の傾向がみられます。
算定率が極めて低い加算(特養)
特養の「現状と課題」資料では、算定率が低い加算の例として、退所時等の相談援助に関する加算群や在宅・入所相互利用加算、小規模拠点集合型施設加算などが挙げられています。
実際の算定状況データ(令和7年11月審査分)を見ると、事業所ベースで1%を下回る加算が複数確認できます。
| 加算名 | 算定率(事業所ベース) |
|---|---|
| 退所前訪問相談援助加算 | 0.1% |
| 退所後訪問相談援助加算 | 0.0% |
| 退所時相談援助加算 | 0.1% |
| 退所前連携加算 | 0.2% |
| 在宅復帰支援機能加算 | 0.0% |
| 在宅・入所相互利用加算 | 0.0% |
| 障害者生活支援体制加算(Ⅱ) | 0.1% |
これらの加算に共通するのは、「退所後の在宅生活を前提とした加算」であるという点です。
特養は要介護3以上を中心とした「終の棲家」としての性格が強まっており、退所を前提とする加算は、現在の入所者像・運営実態とは乖離が大きくなっていると考えられます。
実際、特養からの退所理由の多くは死亡が占めており、居宅への退所を想定した加算が使われにくい構造的な背景があるでしょう。
算定率が極めて低い加算(老健)
老健の「現状と課題」資料では、若年性認知症入所者受入加算、療養体制維持特別加算、再入所時栄養連携加算、試行的退所時指導加算、協力医療機関連携加算、在宅復帰支援機能加算、認知症専門ケア加算、認知症チームケア推進加算、認知症行動・心理症状緊急対応加算などが、算定率が低い加算として明記されています。
算定状況データを見ると、次のような水準になっています。
| 加算名 | 算定率(事業所ベース) |
|---|---|
| 認知症行動・心理症状緊急対応加算 | 0.0% |
| 療養体制維持特別加算(Ⅰ) | 0.8% |
| 療養体制維持特別加算(Ⅱ) | 0.8% |
| 在宅復帰支援機能加算 | 0.1% |
| 認知症専門ケア加算(Ⅰ) | 4.0% |
| 認知症専門ケア加算(Ⅱ) | 1.0% |
外泊時費用・外泊時在宅サービス利用費用についても、算定件数がごくわずかで、ほぼ算定されていない状況です。
老健は本来「在宅復帰・在宅療養支援」を機能として掲げる施設ですが、在宅復帰支援機能加算の算定率が0.1%にとどまっている点は象徴的です。
関連する調査では、認知症短期集中リハビリテーション実施加算や短期集中リハビリテーション実施加算(Ⅰ)についても、医師が必要な研修を修了していない、必要な人員配置が確保できないといった理由で、算定が難しいとする施設が一定数存在することが示されています。
算定率の低さは、制度上のニーズの有無だけでなく、現場側の体制面での取得しづらさも反映していると考えられるでしょう。
算定率が高い加算(基本報酬への包含の可能性)
一方で、多くの施設がほぼ例外なく算定している加算も存在します。分科会資料では事業所ベース70%以上の加算を「算定率が高い加算」として色分けしています。
特養
| 加算名 | 算定率(事業所ベース) |
|---|---|
| 初期加算 | 88.3% |
| 介護職員等処遇改善加算(Ⅰ) | 79.6% |
老健
老健の「現状と課題」資料では、算定率が高い加算として、夜勤職員配置加算、短期集中リハビリテーション実施加算、療養食加算、安全対策体制加算が挙げられています。
| 加算名 | 算定率(事業所ベース) |
|---|---|
| 初期加算(Ⅱ) | 97.7% |
| 療養食加算 | 91.6% |
| 夜勤職員配置加算 | 87.8% |
| 短期集中リハビリテーション実施加算(Ⅰ) | 75.9% |
| 安全対策体制加算 | 71.2% |
これほど高い算定率になると、「もはや加算というより標準的なサービス・体制になっているのではないか」という見方も出てきます。
過去の改定でも、普及が進んだ加算が基本報酬に整理・統合された例があり、今後同様の議論が行われる可能性があるでしょう。
ただし、介護職員等処遇改善加算については、処遇改善という政策目的が明確な加算であり、他の加算とは性質が異なります。
基本報酬への包含を単純に論じることはできず、別の観点からの議論が必要になる点には注意が必要です。
今後の見通し
今回示されたデータは、あくまで次期改定(令和9年度改定が想定される)に向けた論点整理の段階であり、
- 算定率が低い加算=廃止
- 算定率が高い加算=基本報酬への統合
という結論がすでに出ているわけではありません。分科会資料でも、算定率の低さは地域特性や利用者像によって左右される面があるとされており、一律の判断にはなじまないことが示唆されています。
とはいえ、厚生労働省が算定率データを継続的に提示し、報酬体系の簡素化を明確な検討テーマとして位置づけていることは事実です。
施設としては、自施設が算定可能な加算を取りこぼしていないかを改めて確認するとともに、算定率が低い加算については「対象となる利用者がそもそも少ないのか」「要件が複雑で取得できていないだけなのか」を整理しておくことが、今後の制度変更に備える上で有用でしょう。
今後の社会保障審議会介護給付費分科会の議論を、引き続き注視していく必要があります。
参照元:厚生労働省 第260回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料、【資料1】介護老人福祉施設、【資料2】介護老人保健施設

介護現場の「伴走者」。豊富な相談実績から、最適な選択肢を提案します。
介護老人保健施設(老健)や特別養護老人ホーム(特養)での相談援助職を経て、現在は多角的な視点から介護支援を行う。社会福祉士・精神保健福祉士・ケアマネジャーの3つの資格を保持し、制度の裏側から現場のリアルまでを熟知。これまで数多くの家族の悩みに向き合ってきた経験から、読者の「今、どうすればいい?」に対する的確な解決策を提示します。
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