厚生労働省が公表する「介護保険事業状況報告(暫定版)」は、介護サービスの利用実態や給付費の流れを把握するうえで欠かせない基礎資料です。
本記事では、前月(令和7年12月)の動向に加え、年度内の流れも踏まえながら、現場および経営視点での示唆を整理します。
目次
この記事でわかること
- 令和8年1月時点の第1号被保険者数・要介護認定者数・サービス受給者数・保険給付費の最新データと、前月(令和7年12月)からの変動
- 居宅サービスが給付費全体の約半分を占める「在宅中心構造」の定着と、地域密着型サービスの緩やかな成長傾向
- 高水準が常態化した介護需要を踏まえ、現場・経営層が向き合うべき人材確保やサービス設計の課題
まず押さえたい「データのタイムラグ」
今回のデータで特に重要なのが、数値の対象時期です。
受給者数や給付費は、「現物給付11月サービス分、償還給付12月支出決定分」をもとに集計されています。
つまり、受給者数や給付費は11月時点のサービス提供状況を反映している一方、第1号被保険者数や要介護認定者数は1月末時点の実績です。
そのため、本記事で読み解く内容は「年明けの変化」というよりも、サービス利用面では11月時点での高止まりが統計に裏付けられたものと捉えることが重要です。
第1号被保険者数は引き続き横ばい
1月末:3,585万人
前月から大きな変動はなく、横ばいで推移しています。
短期的には安定していますが、団塊世代の後期高齢者入りが進む中で、中長期的には増加圧力が継続する局面にあります。
要介護認定者数は高水準維持+女性比率の高さが顕著
- 総数:734.2万人
- 男性:235.8万人
- 女性:498.4万人
第1号被保険者に対する65歳以上の認定者数の割合は約20.1%で、前月(約20.2%)からわずかに低下。前月からはやや減少しているものの、依然として高水準です。
特に注目すべきは男女比であり、女性の認定者が男性の約2倍以上という構造が続いています。
この傾向は、単身の高齢女性や老老介護の増加、生活支援ニーズの拡大といった現場課題にも直結すると考えられます。
居宅サービスは高水準維持=在宅中心構造が定着
受給者数:447.2万人
前月とほぼ同水準で推移しており、在宅介護ニーズの高さが継続している状況です。
利用者数の規模だけでなく、後述する給付費構造からも、制度全体が在宅中心へとシフトしていることが明確に読み取れます。
地域密着型サービスは安定成長フェーズ
受給者数:94.4万人
微増傾向を維持しており、地域で生活を支えるサービスの定着が進んでいる状況です。
特に、小規模多機能型居宅介護や認知症対応型サービスは、今後さらに重要性が高まる領域と考えられます。
施設サービスは高水準で安定、医療ニーズ対応も進展
受給者数:97.2万人
内訳
- 介護老人福祉施設:58.5万人
- 介護老人保健施設:33.8万人
- 介護医療院:5.2万人
施設全体としては安定した推移が続いている状況です。
中でも介護医療院は全体に占める割合としてはまだ限定的ですが、医療ニーズの高い高齢者の受け皿として着実に利用が進んでいる点は注目されます。
保険給付費の構造|在宅中心と負担軽減の両立
総額:9,438億円
内訳は以下のとおりです。
- 居宅サービス:4,656億円
- 地域密着型:1,517億円
- 施設サービス:2,813億円
居宅サービスが全体の約半分を占めており、在宅中心の給付構造が一層明確になっているといえるでしょう。
利用者負担軽減の仕組み|公費支出の実態
給付費の中には、利用者負担を軽減する複数の制度が含まれています。
- 高額介護サービス費:257億円
- 高額医療合算介護サービス費:11億円
- 特定入所者介護サービス費:184億円(食費96億円・居住費88億円)
特に、高額介護サービス費は規模が大きく、制度が個人の負担軽減を下支えしている状況です。
また、特定入所者介護サービス費については、物価高騰の影響が続く中、施設入所者の生活基盤を支える重要な役割を担っているといえます。
高額医療合算介護サービス費|精算影響は落ち着き
1月:11億円(前月14億円から減少)
制度上の精算タイミングによる変動はあるものの、前月に続き落ち着いた水準で推移している状況です。
12月との比較で見える変動
前月(12月)は給付費・利用ともにピーク水準でしたが、1月は一部で減少が見られます。
ただし、これは需要の減少ではなく、ピーク後の調整局面であり、高水準自体は維持されています。
現場・経営層が向き合うべき課題
今回のデータから明確に読み取れるのは、「需要が増えている」段階を超え、「高水準が常態化している」段階に入っている点です。
これにより、現場および経営には以下のような課題が生じています。
- 人材不足の慢性化
- 在宅サービスの受け入れ限界
- ケアマネジメントの負担増大
- 医療ニーズへの対応強化
特に、在宅中心構造と高齢女性の増加という要素は、今後のサービス設計に大きな影響を与える要因です。
“高止まり”を前提とした経営へ
令和8年1月のデータは、一見すると落ち着いた動きに見えます。
ただし、利用者数は依然として高水準を維持しており、給付構造の在宅シフトや公費依存の拡大といった変化が進んでいる点には注意が必要です。
今後は、単なる需要増への対応にとどまらず、持続可能な運営やサービスの再設計、人材戦略といった観点を踏まえた中長期的な経営判断が求められます。
参照元:厚生労働省 介護保険事業状況報告の概要(令和8年1月暫定版)、介護保険事業状況報告の概要(令和7年12月暫定版)、介護保険事業状況報告の概要(令和7年11月暫定版)、介護保険事業状況報告の概要(令和7年10月暫定版)、介護保険事業状況報告の概要(令和7年9月暫定版)、介護保険事業状況報告の概要(令和7年8月暫定版)、介護保険事業状況報告の概要(令和7年7月暫定版)、介護保険事業状況報告の概要(令和7年6月暫定版)、介護保険事業状況報告の概要(令和7年5月暫定版)、介護保険事業状況報告の概要(令和7年4月暫定版)

執筆者紹介
「福祉現場の架け橋」として、20年の経験から心に寄り添うヒントを。
介護福祉士および保育士として、高齢者介護から障がい福祉、保育まで、世代を問わず20年以上福祉の最前線に携わる。現場での豊富な実践経験を活かし、単なる制度解説に留まらない「介護する側・受ける側」双方の気持ちに寄り添った発信が持ち味。複雑な介護保険制度も、家族の視点に立って分かりやすく紐解きます。





