高齢化の進展に伴い、介護保険制度はこれまで以上に大きな転換期を迎えています。
厚生労働省は、全国の自治体に対し、「介護保険最新情報Vol.1485」を発出し、第10期介護保険事業(支援)計画の策定に向けた方向性を示しました。
本計画は単なる制度改定ではなく、2040年を見据えた「地域介護の再設計に向けた取り組み」といえます。
本記事では、令和8年度の位置づけとともに、資料から読み取れる重要ポイントを現場視点でわかりやすく解説します。
目次
この記事でわかること
- 第10期介護保険事業計画の策定スケジュールと令和8年度に進む準備の内容
- データ活用や中長期推計など、計画の中核となる6つの重点テーマの概要
- 広域連携や医療・介護連携、住まいの可視化など、従来の計画から変わるポイント
令和8年度が分岐点|第10期計画はすでに動き出している
第10期介護保険事業計画は令和9年度(2027年度)からスタートしますが、その内容を大きく左右するのが、令和8年度の動きです。
年度当初からデータ整理や地域分析が進められ、7月頃には都道府県と市町村で課題共有が行われるなど、早い段階から方向性の議論が始まります。
この段階では、次のような検討が同時並行で進みます。
- 地域課題の可視化
- 医療・介護連携の調整
- 高齢者向け住まいの実態把握
- 将来に向けた目標設定
令和8年度は「準備」ではなく、計画の中身を決める実質的なスタート段階といえるでしょう。
データに基づく意思決定の進化|「見える化」の具体化
第10期計画の中核は、データ活用の高度化です。
今回の特徴は、「見える化」が現状把握だけでなく、資源配分や目標設定まで一体化した意思決定基盤になっている点にあります。
主な分析手法として、以下のような手法が活用されます。
- 500mメッシュ単位の将来人口推計
- 地域概況(需要)、提供体制(供給)、医療・介護の連携を示すレーダーチャート
- 事業所の稼働状況や職員数・利用者数等の分析
「医療・介護のSCR」により、地域のサービス量を全国平均と比較し、構造的な過不足を把握。また、これらの分析はKPI(数値目標)設定と直結しており、人材確保や生産性向上などの成果を数値で管理し、継続的に改善していく仕組みが強化されています。
中長期推計の本格導入|2040年から逆算する介護
第10期計画は、2040年を見据えた中長期推計が前提です。
背景には、次のような構造変化があります。
- 85歳以上人口の増加
- 認知症高齢者の増加
- 独居高齢者の増加
これらを踏まえ、現状のサービス供給体制や将来の需要見込み、地域ごとの人口動態を総合的に分析し、「どこに・何を・どれだけ整備するか」を検討します。
また、医療・介護連携の検討も初期段階から進められ、将来の受け皿を地域全体で設計することが重要です。
市町村単位から“広域連携”へ|サービス確保の新常識
人口減少と人材不足の進行により、単一自治体でのサービス完結は難しくなっています。
そのため、第10期計画では、次のような広域的な取り組みが重視されています。
- 隣接自治体との連携
- 老人福祉圏域単位での議論
- 広域的なサービス供給体制の構築
特に、事業所が少ない地域や他自治体に依存している地域では、役割分担と連携が不可欠です。
さらに、第10期計画では、各市町村が自地域の特性を踏まえ、
- 中山間・人口減少地域
- 大都市部
- 一般市等
といった地域分類に基づく分析を行うことが求められています。
なかでも中山間地域では、事業所の経営状況の把握や、制度改正により創設される特例的な介護サービス類型の導入検討など、地域の実情に応じた具体的な対応が重要となりそうです。
医療・介護連携は“実装フェーズ”へ
医療と介護の連携は、理念から実行段階へと移行しています。
特に重要なのが、計画初期からの協議の実施です。さらに、協力医療機関の確保や施設とのマッチング、急変時対応体制の整備など、具体的な実務対応も重視されるようになっています。
連携は「あるべきもの」ではなく、機能しているかどうかが問われる段階に入ったといえるでしょう。
高齢者向け住まいの“可視化”|在宅か施設かの二元論から脱却
第10期計画では、「住まい」を含めた需要把握が重要視されています。
有料老人ホームやサ高住のデータを組み込み、在宅サービス利用者の内訳や入居者の割合を可視化することで、施設が不足しているのか、それとも在宅サービスが不足しているのかを、より正確に判断できるようになります。
今後は「在宅か施設か」という二元的な考え方ではなく、住まいを含めた一体的な設計が基本となりそうです。
認知症施策は“法制度ベース”へ|認知症基本法との連動
認知症施策は、法制度に基づく取り組みへと進化しています。
認知症基本法および推進計画に基づき、社会参加の機会の確保や医療・介護体制の整備、当事者参画の促進が求められるといえるでしょう。
従来の「支援」から、共生社会の実現へと視点が転換しています。
第10期計画は「戦略としての介護」への転換点
第10期計画は、介護を「戦略」として捉える転換点です。
データ分析を起点に、中長期推計、広域連携、医療統合、住まいの可視化、人材戦略を組み合わせ、地域全体の介護体制を再設計していく流れが明確になりました。
令和8年度は、その方向性を決定づける重要な一年です。
これからの介護は、「不足対応」ではなく、将来から逆算した設計と最適配分が求められる時代へと移行しています。
第10期計画は、その新たなスタンダードを示す指針といえるでしょう。
参照元:厚生労働省 第10期介護保険事業(支援)計画の策定に向けた事前準備に関する留意事項について

執筆者紹介
「福祉現場の架け橋」として、20年の経験から心に寄り添うヒントを。
介護福祉士および保育士として、高齢者介護から障がい福祉、保育まで、世代を問わず20年以上福祉の最前線に携わる。現場での豊富な実践経験を活かし、単なる制度解説に留まらない「介護する側・受ける側」双方の気持ちに寄り添った発信が持ち味。複雑な介護保険制度も、家族の視点に立って分かりやすく紐解きます。
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