高齢化の進展に伴い、認知症施策は介護保険制度の中核的なテーマです。特に第10期介護保険事業計画では、従来の「支援の充実」にとどまらず、データに基づく現状把握と、地域全体での具体的な施策設計が強く求められています。
厚生労働省の通知(介護保険最新情報Vol.1485)においても、データを活用した現状の確認と、今後の姿を具体的に示すことを前提に、実効性のある取り組みを計画に落とし込むことが明示されています。その内容は、従来以上に実務への落とし込みが重視されたものです。
本記事では、第10期計画における認知症施策の方向性と、現場で押さえておくべきポイントを整理します。
目次
この記事でわかること
- 第10期介護保険事業計画で求められる、データに基づいた認知症施策の設計の考え方
- 社会参加の機会確保・支援人材の配置・医療介護連携の3つの柱と、それぞれの確認ポイント
- 認知症の人や家族の参画と、都道府県・市町村の連携による計画策定の進め方
認知症基本法と基本計画を踏まえた施策設計が前提に
第10期計画における最大の特徴は、認知症施策が制度的な裏付けを持った形で整理されている点です。
背景には、以下の2つの重要な政策があります。
- 共生社会の実現を推進するための認知症基本法(令和5年法律第65号)
- 認知症施策推進基本計画(令和6年12月3日閣議決定)
これらにより、認知症の人を「支えられる存在」ではなく、地域でともに暮らす主体(共生社会の担い手)として位置づける考え方が明確になりました。
第10期計画では、この理念を踏まえ、単なるサービス整備ではなく、「社会参加」「支援体制」「医療・介護連携」を一体的に設計することが求められています。
データに基づく現状把握が出発点
今回の計画策定で特に重要なのが、「感覚」ではなくデータに基づく現状分析です。
厚労省は、以下のようなデータの活用を明確に求めています。
- 認知症高齢者数の推計
- 社会参加の場(認知症カフェ等)の設置数
- 医療・介護資源の分布状況
- サービス利用状況・アクセス状況
これらは、地域包括ケア「見える化システム」などを活用して把握し、現状→課題→将来像→具体施策という流れで整理する必要があります。
「設置しているか」ではなく「どの程度活用され、機能しているか」まで踏み込んだ評価が必要です。
確認・検討すべき3つの柱
第10期計画では、認知症施策として以下の3つの柱が明確に示されています。
①社会参加の機会確保
認知症の人が地域で役割を持ち続けるための取り組みです。
主な例として、以下のようなものが挙げられます。
- 認知症カフェ
- 本人ミーティング
- ピアサポート活動
重要なのは、単なる「居場所づくり」ではなく、本人の意思や経験が活かされる参加の場になっているかという視点です。
現場では「開催数」だけでなく、参加率や継続率、本人の満足度なども含めて評価していく必要があります。
②支援人材の配置(コーディネーター機能)
認知症施策の推進には、専門人材の配置が不可欠です。
具体的には、若年性認知症支援コーディネーターや認知症地域支援推進員といった人材が挙げられます。
これらの人材は、支援の「つなぎ役」として重要な役割を担っています。
特に現場では、
- 支援につながっていない人の把握
- 医療・介護・地域資源の調整
- 家族への支援
などが求められるポイントです。
そのため、単に配置するだけでなく、実際に機能しているかどうかを検証することが重要といえます。
③医療・介護の連携体制
認知症ケアの質を左右するのが、医療と介護の連携です。
主な体制としては、
- 初期集中支援チーム
- 認知症サポート医
- 認知症疾患医療センター
などが挙げられます。
第10期計画では、これらについて、
- 地域ごとの配置状況
- 利用実績
- アクセスのしやすさ
といった観点から分析を行い、地域間の偏在や機能不足を明らかにすることが求められています。
特に地方部では「資源はあるが使われていない」、都市部では「需要に対して不足している」といった課題が顕在化しており、地域特性に応じた再配置や連携強化が重要なテーマといえそうです。
「本人・家族の参画」が計画策定の前提に
今回の計画で強調されているもう1つのポイントが、認知症の人と家族の参画です。
従来は専門職中心で施策が設計されることが多かった一方、第10期計画では、認知症の人や家族の「参画を得ながら施策を進めること」が明記されています。
そのうえで、社会参加の機会確保や人材配置、医療・介護の連携体制などについて、現状の確認と今後の取り組みを具体的に整理することが求められています。単なる整理にとどまらず、具体的な実行につなげる視点が重要です。
都道府県と市町村の役割分担と連携
認知症施策は、市町村単独での対応だけでは難しい面があります。
第10期計画では、
- 都道府県:広域的な資源配置・データ提供
- 市町村:地域ニーズに応じた施策展開
という役割分担のもと、双方のデータを突合しながら議論することが求められています。
具体的には、
- 医療・介護資源の偏在
- サービスへのアクセス状況
- 必要な機能の不足
などを共同で分析し、地域全体で最適な体制を構築していくことが重要です。
「見える化」と「共創」が認知症施策のカギ
第10期介護保険事業計画における認知症施策は、これまでの延長ではなく、データと当事者視点を軸にした再設計のフェーズに入っています。
現状を正確に把握し、将来像を描いたうえで、社会参加の機会づくりや人材配置、医療・介護の連携体制を具体化していくことが求められています。さらに、本人や家族の声を取り入れながら施策を形にしていく「共創」の視点も欠かせません。
ケアマネジャーや地域包括支援センター職員、認知症ケアに関わる事業者の皆さまにとって、日々の実践はそのまま地域の課題を映し出す貴重なデータです。その積み重ねが、第10期計画の質を左右するといっても過言ではありません。
第10期計画は、単なる行政上の計画ではなく、現場の実践と直結する「地域づくりの設計図」です。今後の認知症施策をより実効性のあるものにしていくためにも、現場発の気づきと連携がこれまで以上に重要になっていくでしょう。
参照元:厚生労働省 第10期介護保険事業(支援)計画の策定に向けた事前準備に関する留意事項について

執筆者紹介
「福祉現場の架け橋」として、20年の経験から心に寄り添うヒントを。
介護福祉士および保育士として、高齢者介護から障がい福祉、保育まで、世代を問わず20年以上福祉の最前線に携わる。現場での豊富な実践経験を活かし、単なる制度解説に留まらない「介護する側・受ける側」双方の気持ちに寄り添った発信が持ち味。複雑な介護保険制度も、家族の視点に立って分かりやすく紐解きます。





