高齢化が進む一方で、人口減少や人材不足が深刻化する地域では、介護サービスを維持すること自体が大きな課題となっています。
特に中山間地域や人口減少地域では、利用者数の減少と介護人材不足が同時に進み、従来の制度のままでは事業運営が難しくなるケースも増えています。
こうした状況を受けて、政府は「社会福祉法等の一部を改正する法律案」において、「特定地域サービス」と「特定地域居宅サービス等事業」という新たな仕組みを創設する方針を示しました。
これらは、地域の実情に応じて柔軟なサービス提供を可能にし、介護サービスの維持・確保を目指す制度です。
本記事では、新制度が創設される背景や仕組み、現行制度との違いについて解説します。
目次
この記事でわかること
- 特定地域サービスが創設される背景と、人口減少地域の介護が抱える課題
- 特定地域サービス・特定地域居宅サービス等事業の仕組みと違い
- 現行の指定サービスとの比較からみる新制度のポイント
なぜ新しい仕組みが必要なのか|地方の介護が直面する課題
介護サービスを取り巻く環境は、今後さらに大きく変化すると見込まれています。
厚生労働省によると、2025年から2040年にかけて生産年齢人口は15.0%減少する一方で、85歳以上人口は42.2%増加する見通しです。
また、2050年には全国の558市町村(全国の市区町村の約3割)で人口が半減(2015年比)すると予測されています。
特に中山間地域では人口減少の影響が大きく、介護サービスの担い手不足が深刻化する可能性があります。
こうした地域では、介護サービスの需要そのものも減少するため、事業所経営を維持することが容易ではありません。
特に訪問介護では、利用者都合による急なキャンセルや利用者宅間の長距離移動、季節による利用者数の変動などがあり、年間を通じて安定した経営を維持することが難しいと指摘されています。
必要な介護サービスを将来にわたって維持するためには、地域の実情に合わせて柔軟な運営を可能にする新たな仕組みが求められています。
特定地域サービスとは
特定地域サービスとは、中山間地域や人口減少地域において、地域の実情に応じた柔軟な介護サービスの提供を可能にする新たな介護サービス類型です。
従来の指定サービスでは、全国共通の人員配置基準や運営基準が適用されていました。しかし、人口減少地域では人材確保が難しく、同じ基準を維持することが困難なケースがあります。
特定地域サービスでは、地域の実情に応じて以下のような特例措置の活用が可能です。
- 管理者の常勤・専従要件の緩和
- 専門職の常勤・専従要件の緩和
- 夜勤配置要件の緩和
- 地域の実情に応じた柔軟な人員配置
さらに、報酬についても従来の出来高払い中心の仕組みだけでなく、月単位の定額報酬などを含む包括的な評価方式の導入が可能になります。これにより、利用者数の変動が大きい地域でも安定した事業運営を行いやすくなることが期待されています。
対象となる地域(特定地域)は、国が一定の基準を示したうえで、都道府県が市町村の意向を確認しながら決定する仕組みです。
あわせて、障害福祉分野においても同様の特例的な仕組みが導入されることとなっています。
特定地域居宅サービス等事業とは
特定地域サービスを活用してもなおサービス提供体制の維持が難しい地域に対応するために創設されるのが、「特定地域居宅サービス等事業」です。
これは、これは、市町村が主体となり、介護保険財源を活用して、給付に代えて居宅サービス等を提供できる仕組みです。
通常の介護保険サービスとして事業者が提供するのではなく、市町村が地域支援事業として実施します。
活用例としては、次のようなケースが想定されています。
- 通常の訪問圏域を超えて訪問介護等を実施する
- 他の介護サービス事業所から訪問機能を提供する
- 通所介護事業所に訪問機能を追加する
- 地域の実情に応じた独自のサービス提供を行う
人口減少が進む地域では、従来のサービス区分では十分なサービス提供体制を確保できないケースも少なくありません。
特定地域居宅サービス等事業は、そうした地域におけるサービス提供体制を補う仕組みとして期待されています。
現行の指定サービスとの比較
特定地域サービスと特定地域居宅サービス等事業は、いずれも人口減少地域における介護サービスの維持を目的としていますが、対象地域や人員配置基準、報酬体系、手続きなどに違いがあります。
| 比較項目 | 指定サービス | 特定地域サービス | 特定地域居宅サービス等事業 |
|---|---|---|---|
| 対象地域 | 全国 | 中山間・人口減少地域 | 中山間・人口減少地域 |
| 人員配置基準 | 国の基準に従い、都道府県等が条例で規定 | 指定サービスより緩和された国の基準に従い、都道府県等が条例で規定※職員負担やサービスの質の確保への配慮が前提 | 規定なし |
| 報酬体系 | 全国一律の介護報酬 | 介護報酬(包括的な評価の仕組みを導入可) | 事業費 |
| 手続き | 指定 | 市町村に登録 | 市町村から委託 |
特定地域サービスは、人員配置基準や報酬体系に柔軟性を持たせることで、人口減少地域における介護サービスの維持を図る仕組みです。
一方、特定地域居宅サービス等事業は、それでもサービス提供が難しい場合に、市町村が主体となって必要なサービスを確保するための仕組みとして位置付けられています。
まとめ
特定地域サービスと特定地域居宅サービス等事業の創設は、人口減少地域における介護サービス提供体制を支える新たな仕組みです。
これまで全国一律だった人員配置基準や報酬体系に柔軟性を持たせることで、地域の実情に合わせたサービス提供が可能になります。
また、特定地域居宅サービス等事業の創設によって、市町村が主体となってサービスを補完できる仕組みも整備されます。
今後は、省令や関連通知により対象地域の基準や具体的な運用方法が示される予定です。人口減少が進む中でも必要な介護サービスを維持するための新たな仕組みとして、今後の動向が注目されます。
参照元:厚生労働省 社会福祉法等の一部を改正する法律案の概要

「福祉現場の架け橋」として、20年の経験から心に寄り添うヒントを。
介護福祉士および保育士として、高齢者介護から障がい福祉、保育まで、世代を問わず20年以上福祉の最前線に携わる。現場での豊富な実践経験を活かし、単なる制度解説に留まらない「介護する側・受ける側」双方の気持ちに寄り添った発信が持ち味。複雑な介護保険制度も、家族の視点に立って分かりやすく紐解きます。
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