「ICTを導入すれば業務は楽になる」
「テレワークを取り入れれば働きやすくなる」
そうした期待とは裏腹に、居宅介護支援の現場では制度や運用とのギャップが課題として浮き彫りになっています。
実際の調査では、逓減制の届出は約1割にとどまり、ICT環境は整いつつある一方で、業務効率化の実感にはつながっていない実態が明らかになりました。
本記事では、逓減制の活用状況やICT・AIの導入実態、テレワークの現状をデータに基づいて整理しながら、居宅介護支援事業所が直面している現実的な課題をわかりやすく解説します。
目次
この記事でわかること
- 逓減制の届出率は約1割にとどまり、届出済みでも7割超が処遇改善につながっていないこと
- ICT端末の整備率は8割超と進んでいる一方、業務効率化の実感には結びついていない現場の課題
- テレワーク未導入の事業所が約7割を占め、対面業務の多さやセキュリティ懸念が普及の壁となっていること
逓減制の届出は約1割──届出しない最大の理由は「ケアマネの負担増」
調査によると、逓減制の適用緩和に関する届出を「していない」事業所は89.4%にのぼります。つまり、実際に制度を活用しているのは約1割にとどまる状況です。
届出しない理由として最も多かったのは、「担当件数を増やすことで介護支援専門員の負担が増加し、モチベーション低下につながるため」(40.7%)でした。
僅差の2位は「ケアプランデータ連携システムがサービス事業所で導入されておらず、活用することが難しいため」(39.5%)で、制度要件そのものに関わる環境面の課題も浮き彫りになっています。
逓減制とは、ケアマネジャー1人あたりの担当件数が一定数を超えた場合に報酬が逓減(減額)される仕組みです。令和3年度改定でICT活用等を要件とした緩和措置が初めて導入され、令和6年度改定ではさらに要件の見直しが行われました。
しかし実態としては、「件数を増やせるようになっても、その分業務負担が増える」という現場感覚が、届出を阻む大きな要因となっています。
届出しても処遇改善につながらない?──「改善なし」が7割超
さらに注目すべきは、届出後の効果です。逓減制の適用緩和の届出済み事業所(71事業所)のうち、処遇改善につながらなかったと回答した割合は71.8%にのぼっています。
これは、件数を増やすことで事業所収入は一定程度増えるものの、それがケアマネ個人の処遇改善(給与や労働環境)にまで十分に還元されていない構造を示しています。
いわば「報酬は増えても、現場には届きにくい」という状態です。
この点は、介護報酬の配分構造そのものに関わる課題ともいえ、別記事で取り上げている「報酬が届かない問題」とも密接に関連しています。
ICT整備は進む──1人1台84.2%、AI活用は議事録作成が最多
ICT環境については、ハード面の整備は一定程度進んでいます。事業所内でパソコンなどのICT機器を1人1台で利用している割合は84.2%にのぼり、多くの事業所で端末環境は整っている状況です。
一方、AI(人工知能関連技術)を利用している事業所は全体の約8%(76事業所)にとどまりますが、その利用目的としては、
- 議事録作成:76.3%
- ケアプラン作成支援:61.8%
と、文書作成補助が中心となっています。
ただし、ここで重要なのは「導入=効率化」ではない点です。
同報告書のヒアリング調査では、ICTを導入しても
- 入力作業そのものは減らない
- 二重入力や確認業務が残る
- システム間連携が不十分
といった課題が指摘されています。
つまり、ハードは整備されているが、業務効率化の実感にはつながりきっていないというのが現状です。
テレワークは「認めていない」が約7割──導入事業所は移動時間削減を実感
テレワークについては、導入状況に大きな差があります。
調査では、テレワークを「認めていない」と回答した事業所が68.0%にのぼり、依然として多数の事業所で導入されていない状況です。
一方で、テレワークを実施したケアマネジャー個人への調査(介護支援専門員向け調査、n=162)では、「通勤時間や移動時間を削減できた」が61.1%と最多であり、一定の効果が実感されています。
それでも普及が進まない背景には、
- 利用者宅訪問など対面業務の多さ
- 個人情報を扱うためのセキュリティ懸念
- 勤怠管理や業務管理の難しさ
といった、居宅介護支援特有の業務構造があります。
一部では効果が確認されているものの、職種全体としてのテレワーク化には課題が残る状況です。
まとめ──ICT導入だけでは解決しない、運用と制度設計の課題
今回の調査から見えてきたのは、居宅介護支援の現場において「ツールは整いつつあるが、十分に活かしきれていない」という実態です。ICT端末の整備やAIの導入は進んでいるものの、業務の効率化や負担軽減の実感にはつながりにくく、運用面での課題が残されています。
また、逓減制の適用緩和やテレワークといった制度についても、「制度としては存在しているが、現場では活用しきれていない」構造が明らかになりました。ケアマネジャーの負担増への懸念や、対面業務の多さといった実務上の制約が、制度活用のハードルとなっている状況です。
今後は、ICTを「導入すること」自体を目的とするのではなく、実際の業務にどう組み込むか、どのように負担軽減や処遇改善につなげるかといった視点がより重要になります。同時に、現場の実態に即した制度設計や運用ルールの見直しも求められているといえるでしょう。
なお、ケアマネジャーの処遇や報酬構造の課題については、別記事でも詳しく解説しています。あわせてご覧いただくことで、今回のテーマへの理解がより深まります。
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参照元:株式会社三菱総合研究所 「居宅介護支援及び介護予防支援における令和6年度介護報酬改定による影響等に関する調査研究事業 報告書」(令和8年3月)/令和7年度老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業分)

執筆者紹介
「福祉現場の架け橋」として、20年の経験から心に寄り添うヒントを。
介護福祉士および保育士として、高齢者介護から障がい福祉、保育まで、世代を問わず20年以上福祉の最前線に携わる。現場での豊富な実践経験を活かし、単なる制度解説に留まらない「介護する側・受ける側」双方の気持ちに寄り添った発信が持ち味。複雑な介護保険制度も、家族の視点に立って分かりやすく紐解きます。





