2027年度から始まる「第10期介護保険事業計画」に向けて、厚生労働省の社会保障審議会で基本指針の見直しに関する議論が進められています。
介護保険事業計画は、全国の市町村が3年ごとに策定する計画であり、地域の介護サービス量や施設整備、介護保険料などを定める重要な制度です。その計画策定の土台となるのが、国が示す「基本指針」です。
第10期では、2040年頃にピークを迎えるとされる高齢化を見据えた議論が進められています。地域ごとの人口構造の違いを踏まえたサービス体制の構築や、介護人材の確保、介護DXの推進などが重要なテーマです。
本記事では、第10期介護保険事業計画の基本指針の位置づけや、新たに示されている方向性について整理します。
目次
この記事でわかること
- 第10期介護保険事業計画の基本指針の位置づけと、「時間軸」「地域軸」を軸にした見直しの方向性
- 2040年を見据えた地域類型(大都市部・一般市等・中山間地域)ごとの課題と、人材確保・経営改善支援の新たな仕組み
- 基本指針の見直しが自治体や介護事業者の計画策定・運営に与える影響
基本指針とは?制度の位置づけを解説
介護保険制度では、保険給付を円滑に実施するため、市町村と都道府県がそれぞれ「介護保険事業計画」を策定します。
この計画は3年間を1期として作成され、地域の高齢者人口や介護需要を踏まえて、介護サービスの供給体制や施設整備、介護保険料などを定めるものです。
計画策定の際の基準となるのが、国が定める「基本指針」です。介護保険法第116条に基づき、国は保険給付の円滑な実施を確保するための基本的な方向性を示し、市町村がサービス量を見込む際の参考となる基準を提示します。
基本指針では、市町村が計画に盛り込むべき主な事項として、次のような内容が示されています。
- 日常生活圏域の設定
- 各年度の介護サービス量の見込み
- 介護施設の必要定員数
- 地域支援事業の実施量
- 介護予防や重度化防止の取組
- 介護保険料の設定
つまり基本指針は、全国の介護サービス体制を方向づける基本設計といえるものです。
第10期基本指針の主な変更点
第10期の議論では、これまでの方針を踏まえつつ、人口構造の変化や地域差の拡大を踏まえた新たな論点が提示されています。
「時間軸」と「地域軸」の視点
第10期では、計画策定の前提として、次の2つの視点が重視されています。
- 2040年を見据えた中長期的な「時間軸」
- 地域の特性を踏まえた「地域軸」
これにより、短期的な需要だけでなく、将来の人口構造の変化を踏まえたサービス体制の検討が重要な課題です。
地域特性に応じた「3つの地域類型」
地域軸の考え方として、自治体を大きく次の3つの類型に分けて考える方針が示されています。
| 地域類型 | 特徴 |
|---|---|
| 大都市部 | 2040年に向けて高齢者が増加し続け、介護サービス需要が急増する地域 |
| 一般市等 | 高齢者人口が一時的に増加するものの、その後減少へ転じる地域 |
| 中山間・人口減少地域 | すでに高齢者人口が減少しており、サービス維持が課題 |
自治体には、自地域がどの類型に位置するのかを踏まえ、サービス体制や施設整備のあり方を検討することが重要です。
人材確保と生産性向上の新たな仕組み
介護人材不足への対応として、地域単位で人材確保や生産性向上を支援する体制の構築も議論されています。
主に、次のような体制の整備が検討されています。
- 介護人材確保のための地域プラットフォーム
- 介護生産性向上のための相談支援体制
また、介護事業者の経営改善支援も重要な柱の1つです。具体的には、協働化・大規模化による経営基盤の強化や、都道府県による相談対応・伴走支援などが想定されています。
2040年問題と介護保険制度の課題
第10期の議論において、最も重要なテーマの1つが、2040年を見据えた介護体制の構築です。
2040年頃には、団塊ジュニア世代が高齢期に入り、介護需要の大幅な増加が見込まれる状況です。一方で、人口減少により地域によってはサービスの担い手不足が深刻化する可能性があります。
そのため第10期では、次のような取組が重視されています。
中長期推計の強化
市町村だけでなく、都道府県においても2040年を見据えた中長期推計を行い、介護サービス需要の変化を分析することが重要です。これにより、地域の実情に応じた介護基盤の整備を進めることが狙いです。
人口減少地域への柔軟なサービス提供
中山間地域などでは、従来の制度では事業継続が難しいケースも増えています。
そのため、人口減少地域でも介護サービスを維持するため、次のような対応が検討されています。
- 特例介護サービスの検討
- 柔軟な報酬体系の導入
医療・介護データ連携の推進
改正介護保険法に基づく医療情報化推進方針を踏まえ、介護分野でも医療との情報連携の強化が進められる方向です。具体的には、医療・介護情報の共有基盤の整備や、計画策定における医療介護連携に関する加算の算定状況の把握などが検討されています。
自治体・介護事業者への影響
第10期基本指針の見直しは、自治体や介護事業者の運営にも大きな影響がある内容です。
自治体への影響
自治体は、地域の人口動態や介護需要を分析したうえで、より戦略的に計画を策定する必要があります。
特に第10期では、次のような観点を踏まえた計画策定が求められます。
- 2040年を見据えた中長期推計
- 地域類型を踏まえたサービス体制
- 医療との連携強化
- 人材確保の地域連携
また、第10期ではPDCAサイクルの強化も重要なポイントです。
計画の実効性を高めるため、目標設定と評価を明確化する「ロジックモデル」を活用し、計画の達成状況を継続的に検証する仕組みが求められています。
身寄りのない高齢者支援の強化
新たな重点課題として、身寄りのない高齢者への支援体制の整備も挙げられています。具体的には、総合相談支援事業や地域ケア会議などを活用し、意思決定支援や生活ニーズについて地域全体で協議する体制づくりが進められる方向です。これにより、家族に頼ることが難しい高齢者を地域で支える体制の強化が期待されています。
介護事業者への影響
介護事業者にとっても、地域包括ケアの担い手としての役割は今後さらに重要になると考えられます。特に、ICTや介護ロボットの活用による生産性向上、医療機関との連携、地域における人材確保の取組への参加など、地域単位での連携がこれまで以上に求められるようになるでしょう。
第10期介護保険事業計画の主なポイント
第10期介護保険事業計画では、2040年を見据えた中長期的な視点で、地域の人口構造や介護需要の変化を踏まえたサービス提供体制の構築が重視されています。人口減少地域への柔軟な対応や、地域特性に応じた介護基盤の整備など、地域差を前提とした政策の検討が進められています。
また、介護人材不足への対応として、人材確保の取組や介護現場の生産性向上、ICTや介護ロボットの活用など、介護DXの推進も重要なテーマです。
さらに、医療と介護の連携強化や身寄りのない高齢者への支援体制の整備など、地域包括ケアシステムを深化させる取組も進められています。第10期では、PDCAサイクルを意識した計画運営を通じて、施策の実効性を高めていくことも求められています。
参照元:厚生労働省 基本指針について、基本指針の構成について

執筆者紹介
「福祉現場の架け橋」として、20年の経験から心に寄り添うヒントを。
介護福祉士および保育士として、高齢者介護から障がい福祉、保育まで、世代を問わず20年以上福祉の最前線に携わる。現場での豊富な実践経験を活かし、単なる制度解説に留まらない「介護する側・受ける側」双方の気持ちに寄り添った発信が持ち味。複雑な介護保険制度も、家族の視点に立って分かりやすく紐解きます。





