「興味があるなら、とにかく顔を出す」|人見知りだったケアマネジャーの独立と挑戦

『第9回 興味があるなら、とにかく顔を出す 人見知りだったケアマネジャーの独立と挑戦』というタイトルテキストが配置された、新緑の木々を背景に穏やかな笑顔で立つ川上洋平さんのアイキャッチ画像。

体育大学を卒業し、スポーツトレーナーを目指していた川上洋平(かわかみ・ようへい)さん。高齢者の運動指導をきっかけに介護の世界へ入り、ケアマネジャーとして10年近い経験を積んだのち、2025年に自身の事業所「彩りケアプラン」を開業しました。

「自分の職場しか知らなかったんです」

転機になったのは、コロナ禍でのオンライン研修やSNSを通じて、全国のケアマネジャーとつながったこと。志高く働く仲間たちとの出会いが、「自分が思うケアマネジャー像」を追いかける原動力になりました。

現在は居宅ケアマネジャーとして現場に立ちながら、産業ケアマネ、ICT活用、Xスペースでの発信と活動の幅を広げ続けています。

「人見知りだった」という川上さんが、どう変わり、何を目指しているのか。その歩みを伺いました。

プロフィール
株式会社Simple 代表取締役/彩りケアプラン 管理者/産業ケアマネ1級。体育大学卒業後、高齢者の運動指導に関心を持ち社会福祉法人に運動指導員として入職。デイサービス勤務を経てケアマネジャーへ転身し、約10年の経験を積んだのち2025年に独立開業。現在は居宅ケアマネジャーとして現場に立ちながら、産業ケアマネとしての企業支援やICT・AIの業務活用にも取り組んでいる。

スポーツトレーナー志望から、気づけばケアマネジャーに

マイクを両手で持ち、笑顔で講演を行っている川上洋平さんのバストアップ写真。背景には『〜支援を考え〜』と書かれた手書きの横断幕の一部が見える。

川上さんが介護の世界に入ったきっかけは、意外にもスポーツでした。体育大学でスポーツトレーナーを目指す中で、高齢者や中高年への運動指導に興味を持つようになったといいます。

「学びの途中から、アスリートから高齢者の方にシフトしていったんです」

ちょうど介護保険制度の中で介護予防が始まった時期。高齢者向けの運動プログラムが今後必要になっていくというタイミングで、運動指導員として介護の現場に飛び込みました。

デイサービスの利用者向けの体操や、地域の一般高齢者向けの運動教室を担当しながら、デイサービスのスタッフとしても現場に関わる日々。仕事をしながら介護福祉士の資格を取り、職場のすすめでケアマネジャーの資格にもチャレンジしました。

合格後も2年ほどは運動指導員として働いていましたが、人事異動でケアマネジャーに。配属先は介護老人保健施設に併設の居宅介護支援事業所 、直属の上司がケアマネジャーでした。

「入職してからケアマネジャーの先輩たちの隣でずっと仕事をしていたので、なんとなくケアマネジャーの仕事のイメージはつかんでいたんです。やりがいのある面白い仕事だなと感じながら、実際にやってみたら、本当に面白かった

そこから7年間勤務。その後、将来の開業を見据えて独立型の居宅介護支援事業所に転職し、「働きながら学ばせてください」と約3年間、運営を間近で経験しました。

コロナ禍の出会いが、独立を後押しした 

映画『オレンジ・ランプ』のロゴが入ったオレンジ色のTシャツを着たスタッフたちと、風船やポスターに囲まれて笑顔で写真に納まる川上洋平さんの集合写真。

独立のきっかけは、コロナ禍でした。自宅にいる時間が増える中で、オンライン研修やSNSを通じて全国のケアマネジャーとつながるようになります。

「カルチャーショックでした。こんな働き方をしている人がいるのか、こんな考え方でやっているのかと。志高く、仕事にプライドを持って、真剣に、ときに楽しく働いている方たちに出会って、すごく刺激を受けたんです」

自分もああなりたい。でも、大きな組織の中では急な変化に対応しづらく、「こうすればいいのに」がなかなか進まないもどかしさもある。自分が思うケアマネジャー像、自分が思う働き方を追いかけたい——その思いが、ふつふつと湧いてきました。

2025年2月に株式会社Simpleを設立し、彩りケアプランを開業。現在は2人体制で運営しています。

「事務作業は想像以上に大変でした。会計も雇用関係も、経営は1年生なので」

それでも、ケアマネジャーの仕事については全く後悔がないと言い切ります。大きく変わったのは、人との関わり方でした。

「大きな組織にいると、中で全部完結できてしまう。でも独立したら、周りの方々に協力してもらわないと回らない。だから連携を大事にしながら関係をつくっていくんですが、それがすごく楽しいんです」

もともと人見知りで、自分から人の中に入っていくタイプではなかったという川上さん。それでも、興味があるものにはとにかく顔を出す。助けてもらったら、自分も返す。その繰り返しの中で、ネットワークはどんどん広がっていきました。

「携帯が鳴るのが怖い」——産業ケアマネを志した原体験

『仕事と介護の両立セミナー』と映し出されたスクリーンを背景に、演台に立ち笑顔でカメラに目線を送る川上洋平さんの写真。

産業ケアマネに関心を持ったきっかけも、コロナ禍でのオンラインの出会いでした。

産業ケアマネの資格を持つ人に出会い、「自分もやってみたい」と思ったのが4〜5年前。しかし、それだけではありません。川上さんには、現場での原体験があります。

かつて担当していた利用者のご家族が、仕事をしながら介護に向き合っていました。サービスを利用していても、何かあるたびに職場に連絡が入る。それが週に何度も続く状況でした。

「ご家族が言っていたんですが 、携帯電話が鳴るんじゃないかと、不安を感じながら仕事をしていたと。自分がその立場になったら、かなりきついだろうなと感じました」

ケアマネジャーとしてできることは、介護保険サービスの調整や介護の相談に限られます。家族の職場での働き方まで踏み込むのは、制度上は難しい。

「介護保険制度の限界というか、穴みたいなものだと感じたんです。産業ケアマネとして介護保険の枠の外にも出ていって、“困ったときにはこうすればいいんだよ”と事前に伝えていく活動ができれば、困る人を少しでも減らせるんじゃないかと思いました」

この思いを胸に、現在は企業との顧問契約による個別相談窓口の設置、月1回の訪問での従業員向けトーク、毎月のニュースレター配信を柱に活動しています。企業や職能団体からセミナー依頼を受けて登壇することも。

川上さんが意識しているのは、データに基づいたアプローチです。

「経営者や人事の方にとって大事なのは数字なんです。国の調査や研究データを読み解いて、根拠をもとに伝えるようにしています。ふわっとした話だけだと、“大事ですよね”で終わってしまう」

介護と仕事の両立支援は、企業にとって経営課題の中で優先順位が低くなりがちです。しかし、介護をしながら働く家族のパフォーマンスは大きく低下するというデータもある。事前に知っているかどうかで、いざというときの判断がまるで変わります。

「新しい資格であり、新しい領域。営業活動は地道に、自分から動いていくしかない。でも、必要な人は確実に増えていくと思っています」

「事業所にいないと仕事ができない」をなくす——ICT・AIのフル活用

オンライン会議ツールの画面。画面越しに3人の仲間とともに、笑顔で手を振ったりポーズをとったりする川上洋平さんのスクリーンショット画像。

川上さんのもうひとつの特徴が、ICTとAIの徹底的な活用です。

「紙でのやり取りがこの業界はすごく多い。でも、事業所にいないと事務作業ができない、FAXの内容を確認できないという環境は、移動を伴う仕事としてはものすごく効率が悪いんです」

Google Workspaceを業務基盤に据え、ペーパーレス化を徹底。ノートパソコン、スマートフォン、タブレットを駆使し、どこにいてもすべての情報を瞬時に確認できるモバイルワーク環境を整えています。

利用者の家族とのコミュニケーションにも工夫があります。LINEWORKSを導入し、電話に加えてチャットを「2つ目の手段」として活用。利用者本人やその家族に「うちはこういうのを使っているんです。面白かったら使ってみませんか?」と声をかけているといいます。

「働きながら介護をする家族にとっては、仕事中に介護の連絡が入ると、それが頭から離れなくなる。電話だと折り返しの手間もある。チャットなら、パッと見てパッと返せる。仕事と介護の両立という意味でも、こういう仕組みは大事なんです」

AIについても、ChatGPTの3.5が一般に広まった頃から使い始めました。現在は複数のAIツールを併用しています。ただ、川上さんが強調するのは「自分が使えるだけではダメ」ということ。

「従業員が安心して適切に使えるような仕組みづくりが大事なんです。セキュリティの部分もそうだし、こう使えばちゃんとした答えが出てくるんだよ、というところまで整えないと」

一方で、業界全体がICTに慎重な姿勢を持つことも理解しています。

要配慮個人情報を扱う仕事だからこそ、確実性を重視してきた積み重ねがある。それでも川上さんがICTやAIのフル活用にこだわるのは、効率化の先に見据えているものがあるからです。

「膨大な事務作業を徹底的に効率化することで生まれた時間を、利用者やご家族と向き合う時間に還元したいんです。本人らしい生き方にケアマネジャーが寄り添えるだけの、時間的・心理的な余裕を生み出すこと。それがいちばん大切な目的ですね」

発信し続けることで、見えてきたもの

広いホールのステージに立ち、マイクを握って講演を行う川上洋平さんの写真。背後のスクリーンには、体育大学卒業や運動指導員を経てケアマネジャー10年目といった自己紹介が映し出されている。

川上さんは、Xスペース「Yo Hey!みっつのMR.産業ケアマネ!」を2年間、ほぼ毎週配信し続けています。一緒に配信しているのは、産業ケアマネやNPO法人「タダカヨ」の活動を通じて出会った畑野充則さん。富山と新潟、隣県の「先輩」です。

「開業のときもいろいろ聞いて助けてもらいました。畑野さんのいるところに、だいたい僕も参加しているような感じなんです」

2年間の配信で実感しているのは、言語化の力です。

「ここでしゃべったことが、他の場面でふっと浮かんでくるんです。セミナーで話しているときにスパッといいことが言えたり、ケアマネジャーの業務にも役立っている。定期的に言語化する機会を持ち続けるのは、いろいろなところに効いてきますね」

発信にはもうひとつ、大事な意義があります。産業ケアマネの認知を広げることです。

「ケアマネジャーからすると、産業ケアマネの存在を知らないと、“うちの利用者の家族に誰かが介護のアドバイスをしている”と誤解を招いてしまう。ケアマネジャーにも活動を知ってもらわないと、連携がうまくいかないんです」

産業ケアマネとケアマネジャーが連携してこそ、介護離職防止は地域全体で回っていく。その橋渡しとしても、発信を続ける意味があると川上さんは考えています。

ケアマネジャーの「いい部分」に、もっと目を向けてほしい

『老人ホームのあれこれ』というタイトルの介護情報誌を手に持ち、指を差して笑顔を見せる川上洋平さんの写真。

今後の展望を聞くと、川上さんの答えは明確でした。

「ケアマネジャーが不足していて、なり手がいないというのは本当に緊急の課題です。地域の中で1人でも“ケアマネジャーをやりたい”という人に対して、ここなら続けられそう、やりがいがあると感じてもらえる事業所にしたい」

ICTの活用で働き方を変え、産業ケアマネという新しい社会的役割も担える事業所をつくる。他の事業所との差別化を通じて、「ここで働きたい」と思ってもらえる場所にしていきたいと語ります。

最後に、ケアマネジャーへのメッセージを尋ねると、自身の経験を重ねながらこう答えてくれました。

「ケアマネジャーって大変だとか、研修ばかりあるとか、そういうイメージがどうしても先行してしまいます。でも、ちょっと視野を広げると、ものすごく広がっていくんです。いろいろな働き方、いろいろな価値観がある。興味があるところに参加してみて、つながりをつくってみてほしい。世界が変わるし、自分の仕事に反映されて、気持ちが前向きになれる。ケアマネジャーのいい部分にも、もうちょっと目を向けてみてほしいですね」

自分の職場しか知らなかった川上さんが、オンラインで全国のケアマネジャーとつながり、独立し、いまは産業ケアマネ、ICT活用、SNS発信とフィールドを広げ続けている。その歩みそのものが、「視野を広げれば、ケアマネジャーはもっと広がる」という言葉の何よりの証明です。

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