モニタリングが終わらない。
気づいたら利用者さんの家のゴミ出しまで自分でやっていた。
困難ケースを抱えて夜も頭から離れない。
ケアマネジャーとして働く中で、このような経験に心当たりはありませんか?
約9年間の現場経験を経て、現在は足立区でケアマネジャーの会社を立ち上げ活動する小元佳祐さんは、こう言い切ります。
「困難ケースと言われるものの、何が困難なのか正直よくわからないんです」
自分はそこまで頑張っていないのに、周囲からの評価は高い。その理由を聞いてみると、多くのケアマネジャーとはまるで違う働き方が見えてきました。
「ドラえもんにならなくていい。のび太でいいんです」

目の前の問題を、ドラえもんのように自分のポケットから道具を出して自力でなんとかしようとしていませんか?小元さんのやり方はまるで違います。
「私はのび太くんなんです。自分がポンコツでも、ドラえもんがいれば大丈夫。人に頼るのはすごく得意なんですよね。そこが他の人との大きな違いだと思います」
訪問介護事業所、デイサービス、地域包括支援センター、行政。小元さんは地域活動を通じてこうした“ドラえもん”を増やし続けてきました。自分で何でも解決しようとするのではなく、頼れる先を日頃からつくっておく。それが小元さんの言う“のび太的ケアマネジャー”の核心です。
「結局、最終的にはどうにかなるんです。自分たちで無理なら、ヘルパーさんが助けてくれる。それでもダメなら地域包括支援センター。それでもダメなら行政。抱え込まずに頼る先を広げていけば、解決しないことなんて絶対にありません」
ケアマネジャーはあくまで調整役。小元さんはこの認識を、誰よりも強く持っています。
では、この”のび太的”な考え方は、日々の業務の中でどのように活かされているのでしょうか。
困ったら、すぐ地域包括支援センターに言う

小元さんの話を聞いていると、地域包括支援センターとの距離の近さに驚きます。
「困ったらすぐに包括さんに言いますよ。火が大きくなってから言われるよりも、小さいうちの方がいいんです。ちょっとやばそうだなっていう雰囲気があったら、もうその段階で伝えておく。一緒に動いてもらえるようにしておくんです」
地域包括支援センターにそこまで頼っていいのか。そう感じる方もいるかもしれません。しかし小元さんは「全然頼っていい」と言います。
「民間の一ケアマネジャーが動くよりも、包括さんが一緒に関わってくれた方が話は早いですよね。だったら、早い段階から相談しておいた方がいいんです」
困難なケースとして渡された案件は、何かあれば随時報告する。小さいうちに伝えておくことで、トラブルに発展しそうな時にも「あの時お話しした件なんですけど」とすぐに一緒に動ける。小元さんはこのサイクルを日常的に回しています。
ただ、こうした関係は一朝一夕で築けるものではありません。小元さんは研修への参加や予防ケースの丁寧な報告を続ける一方で、仕事以外の場での接点も大切にしてきました。現在、小元さんが代表を務めるフードドライブには、5箇所の包括支援センターが協力しています。
「イベントで1日中包括さんと一緒にいたりするので、そこでまた情報共有ができるんです。今どんなケースで困ってるかとか、包括さん側の話も聞ける。支援の質がどんどん上がっていきますよね」
他のケアマネジャーへのアドバイスを聞くと、シンプルな答えが返ってきました。
「まず抱え込まないこと。自分でなんとかしようっていう人が多すぎると思います。のび太くんだってことをもうちょっと自覚すると、世界が変わるのかなって」
とはいえ、どうしても自分でやらざるを得ない場面もあります。いわゆる”シャドーワーク”に対して、小元さんはどう向き合っているのでしょうか。
シャドーワークは”恥ずかしい”と思いながらやる

「シャドウワークやってもいいんです。でも、恥ずかしいと思いながらやる。“自分は調整もできなかったのか”って思いながらやるものだと決めています」
やらないと決めているわけではない。ただし、やる時にはこの感覚を忘れない。それが小元さんのルールです。
「お金がなくて自分でやるしかない場面もあるかもしれない。でも、もしかしたらお金がかからなくてもやってくれる人がいたかもしれない。人脈が足りなかったのかもしれない。だから、やってしまうなら”恥ずかしい”と思うことを忘れちゃいけないなと」
この”恥ずかしさ”が、次へのエンジンになります。あの時悔しかったから、研修でアンテナが立つ。新しいつながりを探しに動ける。同じシャドーワークでも、マインドひとつで意味が変わるのです。
小元さんはケアマネジャーの仕事を「優しさで忙しくしていることが多い」と表現します。
「良かれと思ってやってどんどん増えちゃう。それがすごく多い仕事だなと思うんです。その優しさにもライン引きが必要なんじゃないかなって」
小元さんは優しさを否定しているわけではありません。ただ、優しさのままに動くと自分の業務を圧迫し、結局は自分を苦しめることになる。そのラインを“恥ずかしい”という感覚で引いているのです。
電話は3分、訪問は15分

小元さんの会社では、時間管理について1つの目標を設けています。電話は3分以内、訪問は15分以内。
「あくまで目標ですよ。研修でこの話をすると”そんな冷たいケアマネジャーはダメだ”ってアンケートにめちゃめちゃ書かれるんですけどね」
そう笑いながらも、小元さんの考えは明確です。
「だらだら話してたら皆さんの時間も奪ってるわけですよね。だったら、必要な情報をちゃんと得られるように声をかけた方がいいんじゃないかなと思ってるんです」
もちろん、怒っている利用者さんの前で15分で切り上げるわけにはいきません。あくまで目標であり、人によって柔軟に対応しています。ただ、この意識があるかないかで、1日の動き方は大きく変わると小元さんは言います。
加えて、毎朝A4の裏紙にやることを全部書き出すのが習慣です。頭の中にあるものを全部外に出して可視化する。シンプルですが、これが日々の土台になっています。
「ケアマネジャーの持ち件数は、これからどんどん増えていくと思うんです。高齢者は増えるのに、ケアマネジャーは減っていく。1人の人に1時間モニタリングしていたら絶対に終わらない。どうやってまとめて話すかは、すごく大事になってくるんじゃないかなと」
小元さんがこうした業務効率化を意識するようになった背景の1つには、“ケアマネジャーを紡ぐ会”での業務効率化研修もあります。
そこでの学びをきっかけに、毎朝のやることリストや訪問時間の目標設定など、自分なりのやり方を築いてきました。
では、短い訪問時間でどうやって利用者との信頼関係を築くのか。小元さんには明確な方法があります。
目についたものが、会話のきっかけになる

短い訪問時間でも信頼関係は築ける。小元さんにはその確信があります。鍵は、利用者さんの家に入った瞬間の観察力です。
「リビングに入った時に、例えば賞状が飾ってあったりしたら100%触れるようにしてます。飾りたいほどの出来事がそこにあるわけじゃないですか。そこからどんどん入っていって、心を開いてもらうんです」
賞状、写真、趣味の作品。利用者さんが大切にしているものに触れることで、一気に距離が縮まると言います。
ただ、相手のことばかり聞いていても心は開いてもらえません。小元さんは自己開示も大切にしています。もちろん、何でも話せばいいわけではありません。
「自分の話もしながら、でもお子さんがいない方に子どもの話はしない。そういう無駄をそぎ落としながらコミュニケーションを取っていくことも大事なんだと思うんですよね」
相手に合わせるのは、話題の選び方も同じです。サッカー好きの小元さんは、利用者さんに野球の話を振られてもうまく返せない。そんな時は、自然と自分が話せる方向に会話を寄せていく。無理に合わせるのではなく、お互いが楽しめるところを探すことで、自然と関係が築けるのだそうです。
「昔は玄関を開けるのも緊張してたけど、今は楽しみでしょうがないですね。”どんな人がいるんだろう”って。この感覚は、多分経験しないとわからないかもしれないです」
新人のケアマネジャーには、まずリビングで目につくものに触れてみること、自分の話を少ししてみること。そこから始めてみてほしいと小元さんは言います。
ケアマネジャーは、もっと楽しくなれる

小元さんに、これからの展望を聞いてみました。
「『ケアマネジャーって楽しい』って言ってる人に、私はほぼ出会ったことがありません。でも、のび太的ケアマネジャーみたいな働き方がもっと広がったら、ケアマネジャーを楽しめる人が増えるんじゃないかなと思うんですよね。」
小元さん自身は、ケアマネジャーの仕事を楽しんでいます。その理由は、やはり「抱え込まない」スタンスにあります。
「ケアマネジャーができることは限られてると思うんです。助けてって言える場所はいっぱいあるのに、どうにか自分でやろうとする人が多い。もっと人に頼りまくっていいんですよ」
そんな小元さんには、1つの夢があります。
「自分がハブになって、困っている人とすごい人をつなげたいんですよね。だから、足立区の有名人になることが私の夢。コンビニに歩いて行くだけで声をかけられるくらいになりたいですね。」
将来的にはスナック経営も考えていると笑います。昼はケアマネジャーとして地域を回り、夜はカウンターに立っていろんな人の話を聞く。地域の中で人と人をつなぎ続けること。それが、小元さんの”のび太的ケアマネジャー”の行き着く先なのかもしれません。
執筆者紹介 高橋
医療と介護をつなぐ「安心のサポーター」。現場のリアルな知恵を届けます。
訪問看護やデイサービスでの勤務を通して、介護の現場に携わってきました。病院勤務の経験もあり、医療と介護の両方の視点から、現場で得た知識や経験をわかりやすくお届けします。
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