「介護職・ケアマネこそ強くあれ」23年の現場経験を“価値”に変える、福祉の福ちゃんの挑戦

連載第4回『介護職・ケアマネこそ強くあれ』23年の現場経験を“価値”に変える、福祉の福ちゃんの挑戦、とタイトルが書かれた、福井さんの笑顔のアイキャッチ画像

福井寛之さんは、23年間にわたり社会福祉法人で現場から地域包括支援センター長までを経験し、2年前に独立。現在は“福祉の福ちゃん”としてYouTubeでの情報発信や全国での講演活動、講師養成スクールの運営を行っています。

子どもの頃の介護経験を原点に、包括で孤立と向き合い続けた23年間。そして「届かない人に届けたい」と踏み出した独立の決断。福井さんに、ケアマネジャーへのアドバイスと、介護業界への思いを伺いました。

プロフィール
福祉系大学卒業後、社会福祉法人に入職。特別養護老人ホーム、デイサービスなど現場を9年経験した後、地域包括支援センターに異動し、14年間にわたり2か所でセンター長を務める。2024年に独立し、“福祉の福ちゃん”としてYouTubeでの情報発信、全国での講演・研修、講師養成スクールの運営を行っている。社会福祉士・ケアマネジャー。 

子どもの頃の介護経験が原点。福祉の道に進んだ理由と23年間の歩み

若かりし頃の福井さんとご家族(お母様・お祖母様)が笑顔で寄り添う、温かい思い出の写真

福井さんが福祉の世界を志したきっかけは、子ども時代にさかのぼります。母子家庭で育ち、祖母の介護が身近にある環境で過ごしました。

「自分もいっぱい助けられたので、今度は自分が助ける側に立ちたいなっていう感覚がありました」

この経験から福祉系大学に進学。当初は母子支援の分野を志望していましたが、卒業時に求人がなく、母子生活支援施設も運営する社会福祉法人に就職。配属先は高齢者部門でした。

最初の半年間は苦労の連続だったといいます。大学では児童・母子が専攻で、実習でもおむつ交換の経験がなかった福井さん。専門学校出身の同期たちとの差に戸惑いました。

「周りは僕から見たらエリートですよね。おむつ交換できる人たちの中で、最初はちょっと辛かったです」

しかし、もともと祖父母と過ごすのが好きだったこともあり、業務に慣れてからは高齢者福祉の面白さにのめり込んでいきました。

特別養護老人ホーム、デイサービスと現場を9年経験した後、在宅介護支援センター(地域包括支援センターの前身)へ異動。そこから14年間、法人内の2か所でセンター長を務めました。

地域包括支援センターで向き合った“孤立”。印象に残るケースと学び

マイクを手に持ち、参加者に向けて笑顔で語りかける福井さん

地域包括支援センターは、国が定めた総合相談窓口です。介護保険の申請や認知症の相談など、高齢者やそのご家族が最初に頼る場所ですが、実際の業務はそれだけにとどまりません。

「元気な65歳以上の方に体操や脳トレをする予防啓発もあれば、いきなり虐待の相談が入ってくることもある。本当にあらゆる相談でした」

福井さんが配属されて衝撃を受けたのは、孤立した世帯の実態でした。「ご飯をしばらく食べられていない」という高齢者からの電話。家庭訪問をすると、小学3〜4年生の女の子がおむつ交換をさせられていたケース。中学生の娘がおじいちゃんを叩いてしまうケース。

「印象に残っているのは、本人の支援というより、僕らがハブになって児童関係や保健師さん、行政につないでいく仕事だったということです。いかにつなげるか、そこにやりがいを感じていました」

困っている人の多くは、家族がいても孤立してしまっている。支援につながらないまま問題が深刻化してしまう。 そうしたケースに向き合い、つなげていく“ソーシャルワーク”の醍醐味を、福井さんは包括の現場で実感していました。

それだけのやりがいを感じていた包括を、福井さんはなぜ離れたのか。

「嫌でやめたわけではないんです。未練があるくらい。自分がもっとやりたいことが出てきたから独立したんです」

その“やりたいこと”が、現在の発信活動へとつながっていきます。

届かない人に届けたい。独立とYouTube発信の原点

演台に立ち、パソコンの資料を確認しながら熱心に講演を行う福井さん

包括での仕事に充実感を覚えながらも、福井さんは約5年間にわたって「独立したい」という思いを温めていました。 

その根底にあったのは、包括の構造的な限界への気づきです。

「地域包括支援センターって、相談に来てもらわない限り助けられない場所なんです。でも、本当に孤立している人は相談に来られない。スマホの画面からでも、その人たちにアプローチしたいと思ったのがきっかけでした」

YouTubeでの発信を決めた最初の動機は、部屋に引きこもってしまっている方にメッセージを届けること。相談窓口に足を運べなくても、動画を通じて情報や支援につながる道を作りたいという思いでした。

しかし、発信を続ける中で届く声は、想定とは少し違う方向から来ました。

「ケアマネさんや包括の職員の方から、制度について学べた、元気をもらった、仕事を辞めようと思ってたけど思いとどまれた、そういう声をたくさんいただくようになったんです」

この反響を受け、福井さんの軸は“介護職・ケアマネを応援する発信者”へと定まっていきます。センター長の業務と発信活動の両立が難しくなったこともあり、講演や教育活動に振り切る形で2年前に独立を決断しました。

YouTube500本超の発信で広がったつながり

福井さんのYouTubeチャンネルでは、これまでに500本以上の動画を配信しています。視聴回数が伸びるのは、制度改正や処遇改善加算の解説といった実務系のテーマです。

「要綱を読むのってめんどくさいじゃないですか。それをわかりやすく解説してくれて嬉しいっていう反響が1番多いんです」

一方で、福井さん自身が本当に届けたいのは、包括時代に目の当たりにしたヤングケアラーの問題や孤立防止といったテーマです。深い共感は得られるものの、視聴数には結びつきにくいのが現実です。 

「制度解説で認知を広げて、深いテーマは深いテーマで届けていく。そういう戦略しかないかもしれないと思っています」

YouTubeで認知を広げたことは、具体的なつながりにも直結しました。約5,000人のケアマネジャーが所属する“ケアマネジャーを紡ぐ会”との出会いもその1つ。創設者がYouTubeで福井さんを見つけ、亡くなる直前に声をかけてくれたことがきっかけで、現在も毎月講師を務めています。

また、全国各地の介護支援専門員協会からの講演依頼も、YouTubeが入り口になっています。研修講師を探す担当者がYouTubeで検索し、福井さんにたどり着くケースが多いといいます。

「50人、100人、佐賀では300人。それだけケアマネが集まる場に、自分で集客せずにしゃべれる。YouTubeをやっていなければ絶対にありえなかったことです」

全国から届く依頼はありがたい一方で、1人では受けきれないという課題も生まれていきます。 

講師養成スクール。“伝える力”で仲間を増やす

『講師養成スクール』の修了証書を手に、晴れやかな笑顔を見せる参加者たちと福井さんの集合写真

その課題への答えが、講師養成スクールでした。今年で第2期を迎え、卒業生はまもなく100名に届こうとしています。 

意外だったのは、受講生の動機でした。

「完全に講師を目指す人ばかり来ると思ってたんです。でも実際は、伝え方を学べれば講師にならなくてもいいっていう人が多かった。話下手だから改善したい、という温度感の方が半分くらいいました」

ところが、半年間の学びを経ると全員の意識が変わっていきます。卒業時には「私は講師になります」と全員が宣言して巣立っていくといいます。

福井さんが目指しているのは、発信者のチームづくりです。全国から届く講演依頼を受け切れないほどいただく中で、その仕事を受講生に共有する仕組みを構築しています。

「断るんじゃなくて、みんなで一緒に発信していく。仕事をここにいっぱい集めていきたいっていうのが、僕の野望です」

受講生が介護現場での経験を“伝える力”に変えて、新たな収入源を得ながら、介護がまだ自分事になっていない人たちにもその価値を届けていく。福井さんのビジョンは、個人の活動を超えた広がりを見せています。

ケアマネジャーへのアドバイス。1人で抱えず“助けて”と言える力を

講堂を埋め尽くす大勢の参加者を背景に、カメラに向かって笑顔で手を振る福井さん

包括のセンター長として多くのケアマネジャーと関わってきた福井さん。地域包括支援センターをうまく活用できるかどうかには差があると感じていますが、その原因はケアマネジャー側だけにはないと指摘します。

「包括によって相談を受けるスタンスが全然違うんです。ケアマネの紹介をする包括としない包括がある。相談しても、それはケアマネさんで解決してと言われてしまうこともある。これは包括の質の問題で、ケアマネさんの責任じゃないんです」

構造的な問題がある中で、それでもケアマネジャーに伝えたいメッセージは明確です。

「1人で何でもやっちゃう人が、実は弱いんです。巻き込める人、助けてって言える人が強い。1人で抱えるとシャドーワークも増えるし、結果的に利用者さんにとっても不幸になる。だから、助けてって言える技術を鍛えてほしい

特に大切なのは、早めに相談することだといいます。

「風船が膨らみきって、爆発する寸前で持ってこられても、どこから手をつけていいかわからなくなる。問題が大きくなる前に、一緒に考えようっていうのが僕のスタンスです」

そして、職場内の利害関係から離れた“セカンドプレイス”—職場でも家庭でもない、もう1つの居場所を持つことも勧めています。

全く違う地域のケアマネジャーとつながることで、自分の行政ではできないと思っていたことが実は可能だと気づけたり、動くパワーをもらえたりする。

「狭い空間の中だけで情報を得るんじゃなくて、外の世界とつながってほしい。行政によってルールが全然違ったりしますから」

助けてと言える力、早めに動く判断、そして外のつながり。福井さんのアドバイスの根底には、包括で14年間、孤立と向き合ってきた実感がありました。 

「介護職・ケアマネこそ強くあれ」。経験を価値に変えていくために

お揃いの『I LOVE ケアマネ』Tシャツを着た参加者たちと共に、和やかな笑顔を見せる集合写真

福井さんがYouTubeでも講演でも一貫して発信し続けているメッセージがあります。

介護職・ケアマネこそ強くあれ。これがずっと僕のメッセージです」

“強くあれ”という言葉には、いくつもの意味が込められています。

1つは、自分たちの仕事の価値を自ら発信すること。福井さんが現場時代に1番嫌だった光景は、実習に来た学生に「こんな仕事、就かない方がいいよ」と言ってしまう先輩職員の姿でした。

「この仕事には価値がある。楽しそうにやらないと若者は入ってこない。自分が選んでやっているなら、その楽しさを周りに、せめて自分の周りの子どもにだけでも伝えてほしい」

もう1つは、経験を“価値”に変えていくこと。介護保険の枠の中だけでなく、講師業をはじめとした新たな道で、自分の経験を活かして収入を得られる可能性がある。

「経験をしっかり価値に変えていこう。もっと認められていいし、お金の面でも評価されていい。僕はそう思っています」

23年間の現場経験を土台に、発信者として、教育者として、介護業界に新しい選択肢を提示し続ける福井さん。その原動力は、子どもの頃に「助けられた」経験と、「助ける側に立ちたい」という変わらない思いにあります。

執筆者紹介 高橋

医療と介護をつなぐ「安心のサポーター」。現場のリアルな知恵を届けます。

訪問看護やデイサービスでの勤務を通して、介護の現場に携わってきました。病院勤務の経験もあり、医療と介護の両方の視点から、現場で得た知識や経験をわかりやすくお届けします。

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