“声”だけで認知機能をチェック? AIアプリ「ONSEI Pro」が変える早期発見のかたち

『認知機能セルフチェックアプリ ONSEI Pro』『声だけでできる 簡単・わずか3分』というテキストとともに、高齢男性がスマートフォンに向かって声を出している写真。

スマホ1つ、わずか3分。体温計のように”脳の健康”を測れる時代が来ています。

認知症の早期発見が叫ばれる一方で、「本人が検査を嫌がる」「病院に連れて行くのが大変」──そんな壁に直面しているケアマネジャーや介護事業者の方は少なくないのではないでしょうか。

そんな現場の課題に、”声”というアプローチで切り込むプロダクトがあります。日本テクトシステムズ株式会社(DeNAグループ)が開発した認知機能セルフチェックアプリ「ONSEIシリーズ」です。スマートフォンに向かって声で回答するだけで、AIが認知機能の状態を解析し、MCI(軽度認知障害)の早期検知を可能にします。

今回は、同社の生田目知之氏(代表取締役社長)と北村実穂子氏(ビジネスソリューション部)に、開発の背景から介護現場での活用可能性まで話を伺いました。

あらゆる生体情報を試した末にたどり着いた“声”

シニアの手元がスマートフォンを操作している写真。画面には『ONSEI Pro』のロゴと『今日の認知機能をチェックしてみましょう!』というメッセージ、チェック開始ボタンが表示されている。

「なぜ声なのか」──これは毎回のように聞かれる質問だと、生田目氏は笑います。

ONSEIシリーズは、2015年に設立された認知症領域特化のスタートアップにより、その原型が開発されました。創業者の増岡氏のもとで先進的なサービス・機器の開発が進められ、2021年にDeNAグループへ参画。現在の体制に至っています。

開発の初期段階では、表情、目の動き、瞳孔の反応状態など、さまざまな生体情報が検討されました。しかし、安定した精度やエビデンスの堅牢性の確保、ユーザビリティの確立に時間がかかるという課題を抱えていたそうです。

技術的なブレークスルーとなったのは、認知症の人の「音声特徴量」に偏った分布パターンがあることを発見したことでした。

「声はまさに、脳の機能を反映する、入手しやすい生体情報でした。」(生田目氏)

機械学習による音声解析から認知症に関する特徴を見出し、アルゴリズムとして特許化。これにより、回答の正誤だけでなく声質から認知機能の状態を捉えることが可能になりました。

体温計のような手軽さで、「検知」から「予防」へ

『ONSEI Pro』の2つの画面スクリーンショット。左側は日付の感覚を声で答える際の音声波形画面。右側は、日々のチェック結果をスコアグラフと区分グラフで視覚的に表示している画面。

創業当時から貫かれてきた開発思想があります。

「とにかく体温計とか血圧計と同じくらいの感覚で使ってもらわないと、自宅でのセルフチェックにはならない。そこはもう本当にトップダウンで『やれ』という思想が最初からありました」(生田目氏)

シリーズ初期の「ONSEI」では、時間見当識(今日の日付を答える)という1つの質問に絞ることで、わずか20秒で結果を出力するサービスを実現しました。病院で行われる長谷川式やMMSEなどの検査が約15分かかることを考えると、その簡便さは際立っています。

「これで自宅でのチェックが可能になります。認知機能チェックを、体温計で体温を測るように気軽にできるような環境が整いました。」(生田目氏)

その後「MCI段階での介入により健常に戻る可能性があること」が知られるようになり、MCIの検知を求める社会的要請が高まってきました。

そこで、2026年4月にリリースされた「ONSEI Pro」では、項目を最大4つに拡充。「日付の感覚(時間見当識)」「文章の記憶力(直後再生)」「情報の保持・更新(スパン復唱)」「言葉を引き出す力(語の流暢性)」の課題を組み合わせ、3〜5分で健常からMCI、認知症までを5段階で判別できるようになりました。

結果は、100点満点の総合スコアに加え、花の色(赤・オレンジ・黄色・緑・青)の5区分で表示されます。区分ごとに今後の生活上の工夫に関するフィードバックコメントが添えられており、認知症に対する負のイメージを感じさせない配慮をしています。

この開発は、東京慈恵会医科大学・昭和医科大学との共同研究として始められ、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の支援事業に採択されました。感度・特異度ともに0.8以上の高精度でMCIレベルの認知機能低下を検知できるといいます。

東京23区初──江東区での導入はどう実現したか

『「声」で認知機能をチェックしてみませんか?』というポスターが貼られた会場で、シニアの方々がスタッフの説明を聞きながら、スマートフォンでアプリを体験している様子。

ONSEIシリーズ初の自治体導入事例として注目されたのが、東京23区初となった江東区でのケースです。

導入の経緯は、地道な営業活動の積み重ねでした。「ONSEI」のリリース当初から営業担当が毎年足を運び続けていたものの、なかなか実現には至らなかったそうです。しかし、高齢者施策のIT化推進という方針のもと、改めて声をかけていただきました。

印象的だったのは、認知症の講演会でのエピソードです。開演前に設置された体験ブースでは、当初は「怖い」「自分には関係ない」と遠巻きに眺める参加者が多かったそうです。しかし、医師と専門職が講演で認知機能チェックの重要性を説明すると、流れが一変。休憩時間や終了後にはブースに長蛇の列ができ、「自分のスマホでも使えるの?」といった前向きな質問が相次ぐほどでした。

「ただ『チェックしましょう』と呼びかけるだけでは行動は変わらない。専門家の声かけが、認識と行動の両方を変えるのだと実感しました」(北村氏)

こうした自治体での取り組みは、他地域にも広がっています。2026年3月には東大阪市の健康イベントで「ONSEI Pro」体験会が実施され、61名が参加。体験後のアンケートでは定期チェック希望者が89.4%にのぼるなど、認知機能チェックへの潜在ニーズの高さがうかがえます。

ケアマネジャー・介護事業者はどう活用できるか

明るい窓辺で、シニア夫婦が一緒にスマートフォンを見つめ、真剣な表情で話し合っている写真。

では、介護の現場では「ONSEI Pro」をどのように活用できるのでしょうか。

ケアマネジャーには月1回のモニタリング訪問があります。限られた時間の中で認知機能の指標を取れるツールがあったら──そんな現場目線の期待に、北村氏はこう応えます。

「スマホ1つでチェックができますし、個人情報を取得しない設計なんです。IDを登録していただくだけ。管理画面もありますので、『最近ちょっと気になる』という方の経過を手元で追うことができます」(北村氏)

「ONSEI Pro」の介護現場における利点は、いくつかあります。

まず、この個人情報を取得しないシンプルな設計により、現場へのスムーズな導入が可能です。また、管理者は、管理画面上で全ての利用者の認知機能の推移を把握できます。

次に、訪問前の状況把握に役立つ可能性です。自宅訪問する際、事前に状態把握ができていれば、準備の質が変わります。「いざ訪問してみたら、想定していたよりも状態が進行していて戸惑う、というケースも少なくないと聞きます。状況把握として常備されていれば強力なツールになりますね」と生田目氏は語ります。

一方で、課題もあります。現在のケアマネジメントでは、長谷川式をはじめとする検査項目が制度的に固まっています。「ONSEI Pro」は医療機器ではないため、それらに直接取って代わるものではありません。ただし、既存のチェック項目と「ONSEI Pro」の結果との相関関係を実証していくことで、業務負担の軽減につなげられる可能性があります。

「ケアマネジャーさんが今やっている5〜6個のチェック項目で7、8分かかっている作業を、うちのツールで補完できれば、回転率も上がるでしょう。そこには寄与できるかもしれません」(生田目氏)

今後は、LIFEへのデータ連携や介護報酬の加算との関連づけなど、制度面での活用拡大も視野に入れているそうです。

50代からのセルフチェックで「介護にならない人生」を

『SELECT』と書かれた木製のブロックの上に、様々な服装の男女の小さなミニチュア人形が立っている写真。

生田目氏が繰り返し強調していたのは、「介護に至る前のセルフケア」の重要性です。

認知症の原因物質であるアミロイドβが蓄積するまでには20〜30年かかるとされています。70代からの発症率が飛躍的に上がることを考えれば、50代からの定期的なチェックが理想的です。

ランセットに掲載された研究では、14のリスク因子(難聴、運動不足、高血圧、うつなど)をすべて考慮した場合、認知症の約39%が予防可能とされています。MCIの段階で気づき、生活習慣を見直せば、年間16〜41%が健常に戻れるというデータもあります。

「年に1回でいいから、健康診断と一緒にチェックしてほしい。少し下がり気味だとわかったら、すぐ専門家に相談する。そうやってセルフケアを続けていけば、その人らしく人生をまっとうできる方向に持っていける」(生田目氏)

介護の現場へのメッセージ──「一緒に業界をより良くしていきましょう」

緑豊かな並木道で、シニア夫婦、若い夫婦、2人の子供の3世代家族が手をつなぎ、両手を高く上げて後ろ姿で並んで歩いている写真。

最後に、ケアマネジャーや介護事業者へのメッセージを伺いました。

「日々多くの利用者を抱えて負担がかかっている中で、こういったチェックを含めて作業負担を軽減するものを提供していきたい。だからこそ逆に、現場からの提案をどんどんいただきたいんです。こんな使い方があるんじゃないか、こんな改修をしてほしい──そういう声が一番ありがたい。一緒に世の中をより良くしていきましょう」(生田目氏)

認知機能チェックを「ハードルの高いもの」から「日常のケア習慣」へ。「ONSEI Pro」は、その転換点をつくるツールになるかもしれません。

■ ONSEI Proについて
製品の詳細・導入のお問い合わせはこちら
https://systems.nippontect.co.jp/onsei

■ 日本テクトシステムズ株式会社
DeNAグループ。「~for peaceful aging~」をコーポレートメッセージに掲げ、認知症領域のヘルスケアアプリ・DXソリューションを展開。運転免許更新時の認知機能検査システム「MENKYO」も全国32都道府県の県警に導入されています。
https://systems.nippontect.co.jp

執筆者紹介 高橋

医療と介護をつなぐ「安心のサポーター」。現場のリアルな知恵を届けます。

訪問看護やデイサービスでの勤務を通して、介護の現場に携わってきました。病院勤務の経験もあり、医療と介護の両方の視点から、現場で得た知識や経験をわかりやすくお届けします。

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