厚生労働省は「介護保険最新情報Vol.1502」において、「やむを得ない事情における人員欠如に係る特例的な取扱い」を新たに示しました。
令和8年度診療報酬改定を踏まえた対応で、突発的な人員不足が発生した場合でも、一定条件を満たせば、人員欠如が発生した月の翌々月まで減算適用を猶予できる仕組みです。
対象は通所介護、施設サービス、地域密着型サービスなど幅広く、介護事業者にとって実務上の影響が大きい内容です。ここでは、制度のポイントを整理します。
目次
この記事でわかること
- 令和8年度改正で新設された「減算猶予特例」の仕組みと、猶予が認められる条件
- 「やむを得ない事情」に該当する具体例と、届出に必要な手続き・様式
- 対象となるサービス種別と適用開始時期(令和8年6月算定分から)
人員基準欠如による減算の基本ルール
今回の特例を理解するには、まず既存の「人員基準欠如による減算ルール」を押さえる必要があります。
通所介護や通所リハビリテーションなどでは、必要職員数から「1割を超えて減少」した場合、翌月から減算が適用。
一方、「1割の範囲内」の減少であれば、翌々月から減算となります。ただし、翌月末までに基準を満たした場合は減算されません。
これまでは、急な離職や長期休職などで一時的に人員不足となった場合でも、原則として減算対象となっていました。
新設された減算猶予特例の概要
今回新設された特例では、「突発的で想定が困難な事象」により、一時的に人員基準を満たせなくなった場合、一定条件のもとで減算適用を猶予できるとされています。
通所系サービスでは「必要職員数から1割の範囲内の減少」が対象です。
施設系・地域密着型サービスの通則部分では、看護・介護職員の1割範囲内の減少に加え、看護・介護職員以外の人員基準欠如(翌々月から減算となるケース)も猶予の対象とされています。
さらに、
- 突発的で想定困難な事象であること
- 1年に1回限り
- 人員欠如発生月の翌々月まで猶予
という条件が示されています。
つまり、急な体調不良や離職などで短期間のみ人員不足となった場合、即時減算ではなく、改善に向けた猶予期間が設けられる形です。
猶予を受けるための4つの条件
減算猶予を受けるには、職員確保に向けた以下の4つの取組が求められます。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 必須① | ハローワーク(公共職業安定所)または都道府県ナースセンター・福祉人材センター等の無料職業紹介事業を活用して職員確保に取り組んでいること |
| 必須② | 民間職業紹介事業者を利用する場合は、「医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者認定制度」による適正認定事業者を含むこと |
| 望ましい① | 自社ウェブサイト等で採用情報を公表するなど、積極的な職員確保の取組を行っていること ※Q&Aでは、自ら管理するホームページ等を有しない事業所については、望ましい①の限りではないと示されています |
| 望ましい② | 一部職員へ過度な業務負担が集中しないよう、適正な労働時間管理を行い体制整備に努めること |
必須①②はいずれも満たす必要があります。ただし、必須②は民間職業紹介事業者を利用する場合にのみ適用される条件です。
望ましい①②は努力義務であり、満たさなくても直ちに猶予が否定されるわけではありませんが、厚生労働省は継続的な採用努力と、職場環境整備を重視していることが通知から読み取れます。
なお、別紙様式への記載と有効な求人票の写しの添付は、届出手続き上の必須要件です(詳細は「届出の手続きと注意点」を参照)。
「やむを得ない事情」とは何か
Q&Aでは、以下の2つが具体例として明示されています。
- 職員や家族の突発的な体調不良等により、1か月を超える不在が見込まれる場合
- 職員の自己都合による急な離職等が複数重なった場合
なお、これらはあくまで例示であり、客観的に「突発的・想定困難」と説明できるかどうかが判断の基準となるでしょう。
また、Q&Aでは体調不良等による不在の場合について、求人の申込みにあたっては「短期的な不在を補うためだけでなく、長期的に安定的な人材確保を図る観点から求人内容を検討すべき」とも示されています。
一方で、慢性的な人員不足や、採用努力を十分に行っていないケースは対象外となる可能性があります。事業者としては、客観的に「突発的」と説明できる状況かどうかが重要となるでしょう。
届出の手続きと注意点
減算猶予を受ける場合、届出様式はサービス区分によって異なり、通所介護・通所リハビリテーションは別紙様式7、短期入所生活介護・短期入所療養介護・特定施設入居者生活介護および施設系サービスは別紙様式14、地域密着型サービスは別紙様式11を使用します。
いずれも人員欠如発生月の翌月までに、指定権者(別紙様式7・14は都道府県知事、別紙様式11は市町村長 )へ報告する必要があります。
また、提出時点で有効な求人票の写し添付も必要です。
なお、「1年に1回」の起算点についてはQ&Aで明示されており、人員欠如が発生した月の翌々月の初日から起算されます。複数回の利用は認められないため、適用可否は慎重な確認が必要です。
対象サービスと適用時期
今回の特例は、以下のような幅広いサービスが対象です。なお、適用開始は「令和8年6月算定分から」です。
| サービス区分 | 対象サービス |
|---|---|
| 居宅サービス系 | 通所介護、通所リハビリテーション、短期入所生活介護、短期入所療養介護、特定施設入居者生活介護 |
| 施設系 | 介護老人福祉施設(特養)、介護老人保健施設(老健)、介護医療院 |
| 地域密着型サービス系 | 地域密着型通所介護、認知症対応型通所介護、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)、地域密着型特定施設入居者生活介護、地域密着型介護老人福祉施設 |
※上記の各サービスに対応する介護予防サービス(介護予防通所リハビリテーション、介護予防短期入所生活介護、介護予防短期入所療養介護、介護予防特定施設入居者生活介護、介護予防認知症対応型通所介護、介護予防小規模多機能型居宅介護、介護予防認知症対応型共同生活介護)も対象です。
人材不足時代の介護現場に求められる対応とは
介護現場では、急な離職や体調不良による人員不足が発生しても、サービス提供を継続しなければならないケースが少なくありません。
今回の特例は、そうした現場の実情を踏まえ、一時的な混乱を緩和するための仕組みとして位置づけられます。
一方で、特例適用には「採用努力を行っていること」や「適切な労務管理を実施していること」が前提です。単なる人員不足では適用されないため、日頃からの採用活動や職場環境整備、記録管理が重要になります。
事業者やケアマネジャーにとっては、制度を正しく理解し、万が一の際に速やかに対応できる体制づくりが求められそうです。
なお、介護保険最新情報Vol.1502では、本記事で取り上げた「減算猶予特例」のほか、「協力医療機関連携加算に係る要件変更」(会議の定期開催頻度の見直し等)も示されています。
参照元:厚生労働省 介護保険最新情報 「「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準 (訪問通所サービス、居宅療養管理指導及び福祉用具貸与に係る 部分)及び指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する 基準の制定に伴う実施上の留意事項について」等の一部改正に ついて」及び当該通知の発出に伴うQ&Aの発出について Vol.1502 令和8年5月8日

執筆者紹介
介護現場の「伴走者」。豊富な相談実績から、最適な選択肢を提案します。
介護老人保健施設(老健)や特別養護老人ホーム(特養)での相談援助職を経て、現在は多角的な視点から介護支援を行う。社会福祉士・精神保健福祉士・ケアマネジャーの3つの資格を保持し、制度の裏側から現場のリアルまでを熟知。これまで数多くの家族の悩みに向き合ってきた経験から、読者の「今、どうすればいい?」に対する的確な解決策を提示します。
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